ジンジャーエール

辛口エールで一杯ひっかける

徳島阿波踊り問題。踊る阿保になっていないか。

徳島の名物阿波踊りが分裂して大混乱しているということが大きく報じられています。

で、ツイッターなんかではどうやら徳島新聞と徳島市長が己の利権のために陰でごそごそとやっており、諸悪の根源であるとされています。

これなんかは典型的なモノでしょう。バズってます。

こういったツイートを見て、徳島新聞=利権の巣窟、徳島市長=悪の手先みたいな感じでRTしている人が大勢います。

 

それで思うんですが、この手のネット上の情報に反応して「そうだ!そうだ!」と言ってる人達はどの程度まで自分で調べ物をしてるのでしょうか。

まさかネット上の情報をそのまま事実だとして受け入れてはいないでしょう。

僕も少し気になったのでちょっと調べてみようと思いました。んで、そもそも阿波踊りが(というか旧観光協会が)赤字ってどのくらいの、そしてどういった形での赤字だったのか。あ、僕は記者でもないし徳島にも行かないし、関係者の知り合いもいないからこたつ記事です。なのでネット上の情報を拾ってみての感想です。と予防線を張ってみる。

 

参考にしたのはこちら。

阿波おどり事業特別会計の累積赤字の解消策等に関する調査報告書:徳島市公式ウェブサイト

 報告書をまとめたのは「阿波踊り事業特別会計の累積赤字の解消策等に関する調査団」というのは弁護士、公認会計士、徳島大教授というその道のプロ(だと思われる)人たちです。

興味がある人は読んでみてね、って話です。

観光協会には大きく分けると4つの収入減がありました。

⑴一般会計 … 観光誘致とか阿波踊りの普及のための事業。

⑵阿波踊り事業特別会計 … 阿波踊り期間中の収益。今回問題になっている部分。

⑶指定管理特別会計 … 徳島市からの委託事業。眉山ロープウェイの管理運営等。

⑷振興事業特別会計 … グッズ販売とかレンタサイクル事業。

 

阿波踊り事業特別会計は例年2億6000万円前後の収入があります。対して支出は2億7000万円内外。だいたい1500万円くらいはコンスタントに赤字を出していました。

収入の内訳に関しては平成28年度を例にとると以下のとおり。

チケット収入 … 1億9600万円

補 助 金  … 3100万円

シャトルバス … 460万円

広告収入等  … 4400万円

 

で合計がおよそ2億7700万円です。

これに対し支出が2億8600万円なので900万円近くの赤字です。

支出は桟敷席の設置や照明設備の工事で約8000万円、警備で2100万円。テレビなどで赤字の元凶とされていたシャトルバスは支出として約1000万円なので500万円くらいの損失が出ている状況です。シャトルバスに関する数字は例年ほぼ同様。他の年度の赤字は例年1500万円くらいはあるから損失の3割はシャトルバスが要因です。たしかに赤字の要因の一つではありますが、絶対的な原因とも言い切れないかなー。

 

桟敷席の値段は席ごとに違って前売りで800円~2000円だそうです。全部で何席あるのかわからないので完売したとして収入がどの程度になるのかわかりませんが、冒頭にあげたツイートの①阿波踊りの収益は徳島新聞がほぼ総取りというのはにわかに信じがたい話です。徳島新聞が収益をほぼ総取りできるのであれば、観光協会などそもそも必要ないのでは?余計な箱や人件費がかかるだけでしょう。ちなみに観光協会自体は報告書を読むと昭和46年に設立されています。徳島新聞社が阿波踊り事業にかかわるようになったのもその頃のようです。

www.topics.or.jp

たしかにチケット問題などは不透明なことが多いのは事実でしょう。これは阿波踊りに限らず日本のどの祭りでも言えることです。実際博多の夏の風物詩「博多祇園山笠」でも櫛田神社内に桟敷席が設けられますが、一般人が入手するのは困難です。もし追い山でお櫛田さんの境内に入ろうと思えば有力者とコネを作ってチケットを譲ってもらうか、僕のように参加者の一人になるしかありません。ま、主催者の特典として多少の便宜を図られるのは良しとしましょう。ただ、あまり欲張り過ぎないようにってところでしょうか。僕の印象として少なくとも一企業が地域を代表するお祭りの“収益をほぼ総取りしてる”なんてことにわかに信じられません。

それから②の市が損失を補てん、とありますが、全部を補てんはしてません。収支報告書を読めばわかりますが(というか累積赤字が4億超となってる時点で補てんしてないことは分かるだろ)補助金を出していますが、補助金の予算はあらかじめ決めるものなので、赤字に合わせて支出しているものではありません。H25~27年の補助金がまったく同額なのを見れば一目瞭然。また大きな祭りはもちろん地域の体育大会でも自治体から補助金が出るのは珍しいことではありません。博多祇園山笠も補助金を受けてます。僕が住んでいる町の体育振興会にも市区町村から一定の補助金が出ています。体育行事を通じて地域住民の健康や文化交流につなげるという名目です。なので補助金=赤字を補てんする癒着ではありません。もちろん無批判に補助金を出して良いのか、額は妥当か、といった議論は必要ですが。

③④に関しては裏付けが提示されていません。どちらかというと個人の主観のようですね。

 

阿波踊り事業特別会計がこれほどまでに赤字を垂れ流し、結果的に破たんした要因は報告書に書かれています。

⑴収支均衡に対する視点の欠如

事業計画もずさんで、補助金を投入されている意識も低くなあなあになっていた。収益を上げる、費用を削るための危機意識が薄いことを指摘されています。

⑵当事者意識の薄さ

観光協会にはさまざまな利害関係者が絡んでいるが、だれも当事者意識をもって改善にあたらなかった。まーなんとかなるだろう、誰かがなんとかしてくれるさ、そういった意識が蔓延していたんでしょうね。

⑶会計処理の不適切さ

一部業者に随契していたり、なあなあになっていた部分があったようですね。そのあたりも厳しい目で見る人がいなかったからではないでしょうか。

 

つまるところ観光協会が破たんしたのは、危機意識のない杜撰な運営が原因です。そりゃそうか。要は「絶対潰れるわけないでしょ。いや潰せないでしょ」っていう甘えがあった。

 

当然振興会の人たちの中にも観光協会に関わっていた人がいるわけでしょう。

僕は取材者ではないので、この問題で徳島市や徳島新聞がどのように関わっているのかまでは分かりません。ただ、少なくとも冒頭にあげたようなツイートに飛びついて信じてしまうのは危険だと思います。

権力的なモノを悪として捉えるのは構図として分かりやすいし、おもしろい。

しかし報告書を読めばツイート主さんがあげている①や②はかなり眉唾だし、③や④は客観的事実というよりはかなりツイート主さんの主観が入っているように読める。

大切なのは、情報に接したときにそれが事実に即したものかどうか、自分の頭で考えること。調べること。

それをせずに冒頭のツイートを一読して「そうだそうだ」と受け入れるのはまさに踊る阿保だと言えるのではないだろうか。