西川史子氏の発言はどんなものだったか
東京医科大の合格者操作事件に関して、自身も医師である西川史子氏の発言がなぜか一部で正論と言われているようです。
発言の要旨は
・点数だけで合格させたら女性ばかりになる
・女性医師が増えると眼科や皮膚科だらけになる
・外科医など力仕事が必要な医師が不足する
・できることに応じて男女の比率を分けるのは問題ない
ということで、これが一部の人にとっては正論なのだそうです。
「適材適所は大事」「(東京医科大の件は)差別ではなく区別」「男性には男性の女性には女性の役割があるってことだ」など
ま、一応西川史子氏も裏で調整するのはダメ、とは言っています。
事前に公表しておけばOK、みたいな。
日本の悲惨な女性管理職の現状
さて、西川史子氏の言によれば試験をすれば女性の方が優秀な成績を残すそうです。実はこれ、一般企業の採用試験でも同じようなことが言われています。単純に試験や面接の結果だけで見ると女性の方が多く残る、というのは企業の人事担当者の間ではほとんど常識といっていいものです。
ではそれだけ男性に比べて優秀な人の数が多いと考えられる女性の入社後の活躍はどうなっているのでしょうか。
厚労省の調査で職場における女性労働者の現状をみてみましょう。
詳しくは上記サイトにさまざまな調査結果がまとめられています。
【正社員の男女比率】
女性 … 24.9%
【正社員のうち総合職の男女比率】
女性 … 18.5%
【女性管理職を有する企業割合】*1
課長相当職以上 … 54.1%
【管理職に占める女性の割合】*2
課長相当職以上 … 11.5%
*企業規模が大きいほど女性管理職の割合はおおむね高くなっているが、30人未満の小規模零細企業では19.2%とかなり健闘している。
【産業別女性管理職割合】
もっとも高いのは「医療・福祉」で50.3%。以下「生活関連サービス・娯楽」(20.7%)、「教育・学習支援」(19.7%)、「宿泊・飲食サービス」(19.2%)と続く。
先進国では女性管理職の比率は3~4割はあるようで、日本の10%強というのはダントツに低いです。政府は2020までに女性管理職の比率を30%に引き上げる目標を打ち出していますが、まぁ無理でしょう。あと1.5年ですよ。2020年までにあと何回人事考課できんねん。何段階昇進すんねんって話でしょ。
女性社員はどこにいった
西川史子氏の主張に再度フォーカスします。
・点数だけで合格させたら女性ばかりになる
企業に入社するには入社試験に受かる必要があります。入社後も昇進するのであれば、やはり多くの会社では昇進試験をクリアしなければなりません。優秀であるはずの女性社員はどこに消えてしまうのでしょう。なぜ正社員の比率で女性は約25%しかいないのでしょうか。管理職に至っては男性管理職の1/10です。
これは差別ではなく、区別なんでしょうか?マジで?
適材適所というウソ
西川史子氏は女医が増えると、力仕事の外科医が少なくなる。だから合格者における人数調整は必要だ、と語っています。「男女の役割の違いは無視できない」と賛同する人が結構いるようです。が、これも先の統計をみれば嘘だということがわかります。
西川史子氏の主張に沿えば、力仕事でない分野こそ女性の出番、適材適所だということになるのではないでしょうか。では、力仕事ではない業種ってなんでしょうか。
各種サービス業、金融保険、情報通信などでしょうか。いわゆるホワイトカラーな職種や情報産業あたりでしょうか。
先の統計によると女性管理職の全産業平均は11.5%です。
力仕事のある男性社会のイメージである「建設」(9.5%)、「製造」(7.3%)、「電気・ガス」(2.5%)は、なるほど平均よりも低いです。
サービス業は先ほど見たとおり20%近くあり、高値です。
力仕事がそれほど必要とされないホワイトカラーな「金融・保険」は8.9%、情報通信は10.0%となんと平均よりも低い数値になっています。金融保険に至ってはむしろ建設より低いんかい!という結果に。
女性は力仕事に向かないから抑制されているわけではないようですね。力仕事が必要ない職種でも抑制されてますもん。
女性はなぜか減点される
もちろん各職種ごとに必要とされる技能は異なります。そしてそうしたことを「男女の役割の違い」「差別ではなく区別」と主張する人たちは利用します。
たとえば「金融保険では数字や工学的な知識が必要」「情報通信では論理的思考が大事」「女性は理論より感情で動く」「金融やITは激務」etc.
いろんな理由をつけて、女性を該当する職に就けるのを拒みます。女性であるというだけで、統計上確立されたわけでもない印象論で女性を減点して「向いてない」と決めつけるのです。しかし西川史子氏の主張に沿えば女性の方が優秀な頭脳を持っていることになります。それがなぜか感情的な部分で減点される。
でもそんなのはまだ序の口です。女性であることの職場における最大の昇進阻害要因は妊娠・出産です。かつては結婚したら退職という暗黙のルールを敷いている会社も結構ありました。いまの時代流石に結婚しただけで退職を促していたら大問題になります。
しかし妊娠・出産となると、法律的には産休や育休を取る権利は認められているにも関わらず退職を促すような流れはまだまだ多いようです。
育休で仕事が滞ることはない
今年NZ首相が出産し育休をとることが大きく報じられました。育休は6週間。6月下旬からで、つい先日復帰しましたね。育休期間中は副首相が任務を代行したようです。その間にNZでクーデターが起きたとか、NZドルが大暴落したとか、羊さんがみんな逃げたとかオールブラックスが帝京大学と試合をして大敗したとかのニュースを聞かなかったので、まぁ大禍なくすごせたのでしょう。
いいですか。
一国の首相が6週間という短期間とはいえ、育休をとっても破たんしないんですよ。
であれば一介の経理事務職員とか、保育士とか、パティシエだのSEだとかで本当に抜けたらプロジェクトが、店舗が、会社が止まるなんてことはないんだよ!どんだけスーパースターなんですか!
でももし本当に仕事が止まったとしたら、それは会社の体制がまずいんですよ!
ということです。
実は力仕事に就いている女性たち
介護士とか保育士、学校等の給食。いずれも女性の割合が高い職業です。これらの仕事は力仕事が少ないんでしょうか?だから女性が多いのかな。
しかし実際は、むしろ力仕事だよ!って感じではないでしょうか。介護職では介助の際に高齢者を抱きかかえるのは当然にあります。保育士も時に子供を抱えあげることがあります。学校給食では大量の料理が詰まった超大型の鍋を1人で抱えあげたりしなければなりません。それでもこれらの仕事は男性よりも女性の割合が高いのです。
西川史子氏の論理で言えば、このようなきつい作業を女性は避けるし、男性の手が必要だから男性の合格者数とか求人でも男性を優先的に採用したりすることになるんじゃないのかな。でも実態は全く逆です。
それとも保育士や調理師は女性向きの仕事なんでしょうか。男性には向いてないんでしょうか。それなら学校の教師やホテルやレストランのシェフも女性が多くないと説明がつかないんじゃないでしょうか。
女性の社会進出で困る人がいる
結局のところ何のかのと理由をつけて、女性に安くてきつい仕事を押し付けているだけなんじゃないかと疑ってしまいたくもなります。女性があまり社会進出すると困る人がいるのでしょうかね。
・女性が社会進出すると少子化が進んで国力が下がると考えている
・女性に取って代わられるのを恐れる能力の低い男性
・同性のライバルを減らしたい女性
このあたりですかね。少なくとも西川史子氏が言うように「外科医は力仕事だから男性に向いている」は他の力仕事に女性が多く就いている以上幻の話であるし、男女の性質の違いによる仕事の向き不向きに関しても、情報産業やホワイトカラーの女性比率の低さを見ると「じゃあ女性に向いてる仕事って何すかね?」という結果になっています。
いまだにポジティブアクションを「逆差別だ!」とか言っちゃう男性が一定数いる状況を見るにつけ政府が掲げる一億総活躍、女性の活躍推進なんて夢幻だと言うことがよくわかります。
夜明け前どころかどっぷり深夜。
男女で合格者数を分けることを事前に公表しておけばOKと言っている人たちへ。
それのどこが魅力的な学校や職業なんでしょうか。公平な競争のないところで本当に活力が生まれると考えているんでしょうか。
僕にはそういった考えはとても奇妙なものしか見えません。
それでは、今日はこのへんで。