ジンジャーエール

辛口エールで一杯ひっかける

コンビニオーナーの労働者性

このところ社会的に関心が高まっているコンビニオーナーとコンビニ本部の諍い。オーナー達が作った団体がFC本部が団交に応じないのは不当だとして救済を申し立てていた。地方労働委員会では「労組法上の労働者に当たる」としていたが、中央労働委員会は労働者には当たらないとの最終的な判断を出した。これによりコンビニオーナーがFC本部に対して団交を申し込んでもFC本部は応じる必要がなくなった。応じなくとも不当労働行為には該当しないからだ。

 

今日本全国にコンビニは2019年1月時点でおおよそ56,000店弱ある。これはセブンイレブン、ファミリーマート、ローソンはじめミニストップやデイリーヤマザキなどを含めた数字。一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の調べである。

コンビニエンスストア 統計データ|一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会

 

中には直営店や一人(一法人)で複数の店舗を運営しているところもあるから実際のオーナー数はもう少し低いだろう。それでも4〜5万人規模のオーナーがいるんじゃないだろうか。これらの人たちに労組法上の労働者性を認めるとしっちゃかめっちゃかになって収拾がつかない。中央労働委員会はそうした面を考慮して判断したんじゃないかな。それが正しいかどうかは別にして。

 

これらの一連の流れで気になったのが「コンビニオーナーは経営者なんだから労働者なわけないだろ」という人が結構な数見受けられることだ。その多くはコンビニオーナーが労基法上の労働者であることを主張している、それはさすがに無理筋だろう、と考えているのだ。まずそこからして違う。今回コンビニオーナー団体は労組法上の労働者として団交をしてくれ、と言っているのだ。整理しておこう。

労基法上の労働者

労基法第9条では労働者について以下のように定義している。

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。 

 労基法条の労働者として認められるための条件は大きく二つある。一つは使用者の指揮命令を受けて働いていること。もう一つは賃金を支払われるもの、ということだ。労働基準法研究会が労働者性について判例や学説をもとに1985年にまとめた報告書によると使用性は、

  • 仕事の依頼への諾否の有無
  • 業務遂行上の指揮監督の有無
  • 勤務時間、勤務場所の拘束性の有無
  • 他人による代替性の有無

を検討する。仕事の依頼の諾否の有無は、例えば会社員なら上司の業務命令には原則従わなければならないように仕事を自分で選べるか否か、といったこと。選べないのであれば労働者性が高まる。業務遂行上の指揮監督は仕事の進め方、やり方に指定があるかどうかといったこと。納期までに、必要な水準に達していればどのようなやり方でも構わんよ、となれば労働者性は薄まる。他人による代替性の有無はつまり自分にしかできない仕事かどうかとか、振られた仕事を別の人に再委託してもいいかどうかといったこと。

 

もう一つの賃金性は、報酬が時間単位で計算されるなど労務提供の時間の長さに応じて決まるような場合は賃金性が高くなる。例えばイラストの仕事を頼まれたとして2時間で終わろうが、10時間かかろうが一つの作品に対して3万円払うのであれば報酬と考えられる。2時間で終わったんだから時給1,000円計算で2,000円支払うとなれば賃金だということになる。そのほか判断が難しい場合は、機械や器具は自己負担なのかどうか、専属性があるか、所得税を源泉して徴収しているのか、社会保険料を控除しているかなどから総合的に判断する。

 

参考までに

労働基準法の問題点と対策の方向―労働基準法研究会報告書

労働基準法の問題点と対策の方向―労働基準法研究会報告書

 

 意外に高い。普通の人はあまり買わないか。そりゃそうだ。

 労組法上の労働者

一方で労組法上の労働者の定義はどうなっているのか。労組法第3条には以下のとおり定めている。

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。

労基法上の労働者との違いがわかるだろう。労組法では労働者性を判断するにあたって「使用されている」ことは求められていない。極端に言えば失業者も含まれることになる。また「賃金」に限定されてもいない。「賃金、給料その他是に準ずる収入」とかなり幅をもたせた書き方になっている。団体交渉は何のためにするか、ということを考えれば当然だろう。社会的立場や経済的に弱いものを保護するために使用者と対等の立場で交渉するために労組法があり、団結権、団体交渉権、団体行動権が認められている。賃金に限らず労働を提供し対価として報酬を受けているのであれば労働者になる。バイク便のドライバーがそうだし、最近だとウーバーイーツというのかな、あれもそうなるだろう。ウーバーイーツもいまのところ訴訟にはなってないみたいだけど(僕が知らないだけでなってるのかな?)そのうち大きな問題になるだろうね。プロ野球だって労組はある。ストライキもやった。プロ野球選手が労基法上の労働者かと言われれば僕はまー違うとは思う。しかし自由に移籍できないとか、そもそもドラフトってなんだよ好きな球団に入れないのかよ、とかいろんな制約がある。一方的に自由契約にはできるなど不公平感が強い。年俸交渉でも永らく代理人を認めてこなかったり。球団の方が立場が強く選手は経済的に従属していることを思えば労組法上の労働者に該当することは疑いようがない。

 

このように労基法上の労働者と労組法上の労働者は違う。労基法では労働者に該当しなくとも労組法では労働者にあたり、必要な保護や権利を行使することはできるのだ。まずはその理解が必要だ。

 

さて、今回中央労働委員会はコンビニオーナーは「独立した事業者であり、労働者に当たらない」と判断した。判断そのものへの疑問もあるだろう。ていうかある。しかし一方でFC本部がコンビニオーナーはあくまで「独立した事業者」と言い張るのであれば独立性をきちんと確保しなければならないだろう。コンビニ弁当の廃棄問題とかどうするんだろうね。これからは独自に見切り販売していいんだよね?バレンタインや恵方巻きもノルマ失くすんだよね?コンビニオーナーが「うちはそんなイベントに力入れません」と言えば認めるんだよね。地方の郊外店で深夜帯の集客が見込めないのであれば時間短縮営業もオーナーの経営判断でオッケーなんだよね。あと、いまセブンで契約しているけど、FC本部に上納するチャージが高くて苦しい、ファミマは契約してくれたらいまのセブンチャージより2%低く契約しますって言ってるから鞍替えするねっていうのも独立した事業者であれば可能なんだよね?労働者性は認めない、しかし独立した事業者として対等な関係を築く気もない。いいとこ取りだけしたい。そんなのはいまの時代もう認められなくなったことにFC本部は気づく必要がある。

 

だいたい半径100M以内に4つも5つもコンビニいる?僕はいらないと感じる。多くの人がそう思ってるんじゃないだろうか。コンビニオーナーになる!っていうのは今でも脱サラする人に人気なんだろうか。でも実態を知ればなり手もどんどん減るだろう。FC本部にとって最もダメージがあるのは店舗数が減ることなんだから、今のままではいずれ減退は避けられないだろう。コンビニオーナーはFC本部にとっては大事なお客様なんだから、お客様の声に真摯に耳を傾けたFC本部だけが生き残ることができるだろう。いたずらな拡大はリスクだ。

 

中央労働委員会の判断を受け、今後は裁判で争っていくという。どうなるか推移を見守りたい。あとコンビニオーナーにも言いたい。いまだにめちゃくちゃな労務管理してるところが多い。レジ違算の罰金とか、シフト強要とか。残業代不払いとか。まずはそーいうとこちゃんとしないと世間の理解は得られない。そこはちゃんとしよう。