ジンジャーエール

辛口エールで一杯ひっかける

会社を休んで受けられる補償とは?

自民党の佐藤正久氏がこのところ労働法制をまったく理解せぬままデタラメな情報を発信している。なので新型コロナウイルスで休業する場合の正しい補償関係をまとめる。

年次有給休暇

佐藤正久氏はこのように発言しました。

これについて多くのツッコミがありました。当然非正規雇用者でも一定の条件を満たせば年休は付与されます。詳しくは下記厚労省のサイトをご覧ください。

www.mhlw.go.jp

まず年休は①入社後6か月以上継続して雇用されている②全労働日の8割以上出勤している、の2点を満たせば取得することができる。日数は原則として1週間に働く日数と勤続年数によって決まる。出勤日数が週によって3日とか4日とかバラバラな人は年間の労働日数で判断する。詳しくは上記サイトの表を参照してちょ。

 

んで非正規雇用者の場合は比例付与といって、1週間に働く日数に応じて年休の日数が決まる。たとえば1週間に4日働く人は入社半年で7日が向こう1年間の年休取得可能日数だ。ただし注意点があって、週に4日働く人でも1日8時間働く人は別。この場合1週間に30時間以上働くので通常の労働者と同じく10日が付与される。単純に1週間30時間以上働く人は通常の労働者同様、と覚えて良い。

 

医療とか介護従事者で夜勤の人がいる。14時間勤務、とか。この人たちは週に3日勤務でも週の労働時間が30時間以上になるから半年で10日貰える。あるいは1日1時間しか働かなくても週5日働くのであれば、半年で10日の年休が付与される。あと極端な話だが、月に3日しか働かないというような人には年休がつかない。まずは自分の労働条件を雇用契約書などで確認しよう。

 

佐藤正久議員は、多くのツッコミを受け気づいたようだが、基本的によく知らない分野について発信する際は気をつけたいものである。

 

さて、年休を取得した場合はいくら支払われるのか。

年休を取得したときの賃金の計算には3通りの方法がある。会社はどれか一つを選んで就業規則等に載せておかなければならない。その時々で計算方法を変えることはできない。

 

①通常の賃金

時給なら時給×労働時間数、日給なら日給額、月給者なら日割りした額を支払う

②平均賃金

過去3か月間の賃金総額を総日数で割る。たとえば給料総額(残業代とか通勤手当とかすべて含む)が30万円だとしよう。30万円×3=90万円。4~6月の期間で算定するとしたら総日数は91日。

900,000÷91=9,890.10銭が1日当たりの金額。

③健康保険の標準報酬日額

採用している企業はあまりないので省略。知りたい人は厚労省か労働局のHP見てください。

休業手当

佐藤正久議員は休業手当についても間違った認識に基づく発言をしている。たったの2日の間にだぞ。この人は反省しないのか。

 ハッキリ言って文章自体が分かりにくい。これはあまり理解していない知識について知ったかぶりをする人の書く文章によくある傾向だ。やたらに単語がぶつ切りなんだ。なにか専門用語っぽいものを羅列する。漢文っぽい感じがする。何となく聞き齧った単語をとにかく並べようとするので行間がなく、非常に窮屈でカクカクしている。こういう現象に名前はあるのだろうか。

 

ま、それはいいとして、佐藤正久議員のいわんとすることはこうだ。

①新型コロナウイルスは指定感染症になったので、新型コロナウイルスにり患した従業員に休業命令を出しても企業は労基法第26条に定める休業手当の支払い義務を免れる。

 

②じゃあ新型コロナウイルスにり患して、企業から休職命令を出されて自宅待機する人の所得補償はどうするか。健康保険の傷病手当金を申請すればざっくり給料の2/3くらいが貰える。

 

③新型コロナウイルスにり患したわけではないが、企業が念のため休職命令を出した場合は労基法第26条の休業手当が受けられる。

 

④り患してない人は休業手当で給料が満額貰えて、り患した人は傷病手当で2/3しか貰えない。それってシステムエラーじゃね?

 

⑤非正規雇用者の年休は少ない。年休以外の法定休暇制度が必要じゃない?

 

こんなところだろうか。①~⑤について解説を試みる。

休業手当って?

まず①の内容について。休業手当について労基法では下記のように定めている。

第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。 

 (e-GOVより引用e-Gov法令検索

使用者の責めに帰すべき事由というのは、たとえば経営不振とか機械の故障とか。その場合には平均賃金の60/100以上を企業は所得補償として従業員に支払わなければならない。んでほとんどの企業では60/100と規定している。それであればとりあえず適法とされる。100/100を補償する企業があったらそれはホワイトさんですね~。

 

要するに「満額」の時点で佐藤正久議員は事実誤認している。あるいはこの人の周囲にはホワイトさんしかいないのかしら?

 

重要なポイントとして「使用者の責めに帰さない」事由の場合は休業手当の支払い義務を免れる、ということだ。たとえば大規模災害がこれにあたる。そのほか指定感染症も休業手当の支払い義務がない。そして新型コロナウイルスは指定感染症だ。よって①の内容は満額補償という認識では×に近い△。満額ではないケースの方がはるかに多い。

 

さて、新型コロナウイルスにり患してないけど予防的に休業させる場合や材料が入ってこないから工場を休ませる場合はどうだろうか?②の場合だね。

 

この場合は「使用者の責めに帰すべき事由」による休業だから休業手当の支払いが必要だ。そうなると休業手当を払いたくないので出社させる会社が多そうだなー、と予想される。あと取引先が休業したことや材料が入ってこないので休業せざるを得ない会社はキツイね。

 

一応「雇用調整助成金」という休業時に受けられる助成金はある。使用者は問い合わせてみてはどうだろうか。

www.mhlw.go.jp

新型コロナウイルスに関連して特例を設けている。事後の計画提出を認めるなど要件を緩和するということです。

https://www.mhlw.go.jp/content/000596026.pdf

傷病手当金

続いて②だ。この部分、佐藤正久議員は「個人保険」なんて書き方をしているので全体を分かりにくくしている。これは会社で加入する健康保険のことを言いたいのだろう。しかし普通個人保険というと日生だのアフラック(ちなみに僕の周囲の保険会社の人はみなアフラックを非常に悪く言う。なぜなんだろう、ととぼけてみる)と誤認してしまうのではないか。ちゃんと社会保険、百歩譲って会社の保険と書いた方がいい。

www.kyoukaikenpo.or.jp

傷病手当金については上記協会けんぽを参考に。給与の2/3というのはざっくりし過ぎている。標準報酬月額は原則年1回決定するもので、保険料の決定後に残業が多い月が続いたりすると実態と異なることがままある。あくまで標準報酬月額の1/30を日額相当として計算するので、先月の給料が残業込みで40万円でも標準報酬月額が260,000とか280,000の人はそこがベースになり「あれ?意外と低くない?」とならないとも限らない。

 

あと傷病手当金を受給できるのは会社の健康保険に入っている場合だ。協会けんぽの加入条件は正社員に比べて1週間の労働時間、1か月の労働日数が3/4以上の人。大企業なんかだと自前の健保組合を持っているところもある。条件はだいたい同じか、緩やかであるはずだ。

 

正社員の労働時間が40時間なら30時間。正社員の出勤日数が22日ならおおむね17日以上だね。逆にこれ未満の人は会社の健康保険に加入できない。したがって新型コロナウイルスに感染しても傷病手当金の申請はできない。これが結構きつい。

 

会社勤めでもパート勤務で社会保険に入れない人(一部大企業で特定の条件を満たす人は除く)や個人事業主は国民健康保険に加入する。そして国保には傷病手当金に相当する制度は、ない。僕はこれが不満だ。不公平じゃないだろうか。特にこれからフリーランスになる人は増えるだろうから見直して欲しい。

 

さて佐藤正久議員は④のようにシステムエラーだといってますが、休業手当の額と傷病手当の額を比較すると必ずしもシステムエラーではないということがわかります。むしろ国保には傷病手当金がない方がよっぽどシステムエラーでしょ…。パート社員と個人事業主に幸あれ。

病気休暇は必要か?

非正規雇用の年休の日数の少なさや、今回のような感染症の流行を考えると年休とは別に病気休暇の導入が必要じゃないか、という声が上がってます。いままで見てきたように非正規雇用は年休は少ない、労働時間が短い人は健康保険に加入できないから傷病手当金もない、となると不安だろう。病気になっても稼ぎが減るのは困るから休めない。無理して出勤してさらに身体を悪くするという悪循環に陥ってしまう。

 

しかし病気休暇を有給とすると、病気休暇を取得するには会社は、事前にあるいは事後に診断書を提出するよう求めるだろう。そうしないと制度を悪用して病気じゃないのに病気と偽って休む人が出てくるからだ。残念なことだけど不埒な考えを持つ人は必ずいる。

 

しかしこの診断書というのが結構高い。別に病院に文句を言ってるわけではない。医師だって責任があって書類を作り署名するわけだから数百円、というわけにはいかないだろう。といって3,000円とか5,000円となると、もともと収入の少ない非正規雇用者にとってはかなり負担だ。このあたりに検討の余地があると思う。診断書作成料のうち8割はあとで請求したら戻ってくるとか。特別予算組んでくれてもいいんじゃないだろうか。

 

あとは非正規労働者の年休も増やすとか。佐藤正久議員は「動きます」なんて言ってるが、知見のない人が動き回ってかき乱しても変な制度ができ上るだけである。橋本岳厚生労働副大臣がそれをやってのけた。ただ動くのではなく、正しく動いてほしいものである。

さいごに。

個人的に今回の新型コロナウイルスで、り患者はいないけど休業が必要な場合のベターな対応は休業命令を出して休業させることだと思う。その上で雇用調整助成金を受給してはどうだろうか。会社が負担すべき休業手当の多くを補填してくれる。ただ、直近で解雇とか退職勧奨による離職者を出している場合は助成金の対象外なんだよね。チーン。