ジンジャーエール

辛口エールで一杯ひっかける

岩田氏と高山氏の問題から見える危機管理の意味と日本が一人負けする理由

 新型コロナウイルスは収束どころか広がりを見せている。この問題への日本政府、厚労省の対応を見ると、どれだけ危機管理できてないんだよと思わされる。そしてそれはそのままここ数十年の日本の衰退を止められない理由とリンクするのだろう、と感じる。

確認

神戸大教授で感染症対策の専門家である岩田健太郎氏がダイヤモンドプリンセス号に厚労省の伝手を頼り乗り込んだところわずか数時間で追い出されたという。その顛末をYouTubeで公表し、大いに世間を驚かせた。僕も驚いた。船内の現状を世に知ってもらう役割を果たせたと判断したのか、動画はその後削除。

 

すると岩田氏をダイヤモンドプリンセス号に手引きしたという厚労省サイドの人が「事実はこうだ」とFacebookに投稿。投稿したのは高山義浩氏。かつて厚労省に勤務していて、現在は沖縄の病院に勤務しているとか。

 

内部の詳細については僕は部外者なので当然知り得ない。また感染症についてもまったくの門外漢なのでコメントできない。問題は岩田氏が下船を命じられた経緯についてだ。ここはマネジメントに関することで僕にも少しだけわかる。なのでこのエントリを書いている。

下船理由

そもそも岩田氏がダイヤモンドプリンセス号に乗ることができたのも、何と言うか裏口乗船みたいな感じではある。専門家としての使命や危機感があったのではないかと思うが、人によってはスタンドプレイと感じるかもしれない。一つ言えるのは政府が情報を出そうとしない現状や、ほとんど無策のうちに国内で感染が広がっていることに僕ら一般人も危機感を覚える必要があるということだ。そして岩田氏は動画で国の杜撰な対応をしっかりと告発している。

 

高山氏によると、岩田氏が船から追い出されたのは特別に乗船を認められたのにもかかわらず厚労省の指示を聞かない、現場の和を乱す、ということだそうだ。現場はみんな頑張ってるのに、とも投稿には記されている。

マネジメントとはなんだろう

岩田氏の言動はややエキセントリックなところがあるそうだ。ツイッターなどでのそうした発言の一端を僕も確認したことがある。なので、平常時の対策チームとかでおなじような振る舞いをされると「はぁ!?」と敬遠される可能性があることは理解できる。

 

しかしいまは非常時だ。新型コロナウイルスの感染が拡大すれば、多くの国民の健康が脅かされる。経済への影響も心配だ。国際的な信用にもかかわる。となればマネジメントも非常時に合わせたものでなければならない。

 

はっきりいうと危機的非常時に「現場の和」なんていうのは必要ない。「みんな頑張っている」というのも無用だ。大切なのは方針と実行である。自分の持ち場を侵された、というような感情が最も害悪。この危機的状況に何を言ってるんだ?としか思えない。

方針について

方針については、危機の内容について最も知見のある者に意見を聞き決定するべきだろう。意見を出すのに役職の上下は関係ない。役職が上位のものは意見を聞き、採用し、実行命令を出し、すべてのことに最終的かつ完全に責任を取る。それだけ。

実行について

よく非常時は強いリーダーシップを持った人物が必要、ということを言う人がいるがそれは間違いだ。それだと独裁者の台頭を許してしまうことになる。注意しなければならないのは意思決定権者の数を少なくし権限を集中させることではなく、トップの意思決定の機会そのものを減らすことだ。会議や稟議書を減らせ。スピードが超大事。そのため危機対応の実行について大切なのはできるだけ権限を委譲することだ。細かいことについては各現場に権限を委譲する。どこまで権限委譲してもよいのかをきちんと決めなければいけない。それがないと現場が暴走してしまいかねない。

平時と有事の違い

平時なら「現場のここを、こう改善したい」という提言を部署内で検討し、担当役員に上げ、取締役会などで発議し決定する、でもよいだろう。大企業であれば最終決定までにいくつの判子がいるか想像しただけで気が遠くなるが、まあ平時なら許されよう。

 

しかし有事にそんなことをやっていては急変する事態に到底対応できない。現場の声をダイレクトに拾うとか、外部から専門家を招くとか、できるだけ権限移譲するとか。それをしないと生きるか死ぬか、という時にのんびり対策会議でもなかろう。たとえば現場の一社員が部長や担当役員を飛ばして直接社長に提言をする。そのことで面子を潰された、なぜ先に一言俺に言わない、という上司がいたらどうする?

 

高山氏も素晴らしい医師なのだろう。現場の苦労も分かっているのだろう。しかしいまは有事なのだ。危機的状況じゃないのか。なにしろこの国のトップは対策会議に数分出ただけで後はホテルや中華料理で会食三昧。対策会議のメンバー(大臣)も地元有権者への媚び売りを優先して会議をサボる始末。空気を読んでないのは岩田氏ではなく、ろくな対応をしていない政府の方なのだ。

日本1人負け

日本は世界の中で1人負けともいえる状況が続いている。先ごろもGDPが年6.3%もマイナスだと発表された。賃金も先進国の中で日本だけ上がらない。バブル崩壊後の「失われた20年」じゃない。いまも失われ続けたままだ。

 

それだけ危機的な状況なのに日本政府も企業も平時のままのマネジメントを続けている。そりゃあ負けるよね。いま必要なのはどう考えても有事のマネジメントだろう。のんびりと、頻繁に、会議のための会議を開き、決裁文書の海に溺れている暇はないのだ。

 

岩田氏はなるほど劇薬かもしれない。しかし感染症対策について日本でも有数の専門家と聞く。なぜそのような人物を最初から対策チームに加えないのか。もちろん現段階で対策にあたっている専門家も素晴らしい人たちには違いない。それでも協力してくれるの人が多いに越したことはないだろう。別に船頭を増やせといってるわけではない。船頭が行き先を決めたりどのルートを通るのが最適か決定するのに必要な情報を集めろ、といっているのだ。

 

だいたい昨年の流行語大賞はワンチームじゃないのかよ!

 

当たり前の話だけど、マネジメントというのに正解はない。その時々の状況によって変えるのもまたマネジメントだ。しかし日本政府、官僚、多くの企業は何十年も前の「良かったころ(幻想)」のマネジメントをいまも続けている。そりゃあ海外との競争に負け続けるし、日本国内も成長が望めないよね、って話だ。

 

高山氏の投稿に対しても全肯定し「岩田氏は現場の苦労を知らない」「空気読めないヤツは混乱させるだけ」と有事に平時のマネジメントを持ち出し岩田氏を非難する人が少なくないのを見て結構世の中アホが多いのね、と思う次第です。