なんとも凄まじい話だ。
そして面白い。
日本だと退職時の引き継ぎは当たり前という印象を多くの人が持っているのではないだろうか。
上記記事との違いは日本の場合は即時解雇が(ごく一部の例外を除いて)合法ではないというところ。だいたい会社を辞めるのは自己都合によるものが多いので「引き継ぎやっていってよ」ということになる。退職までの時間的余裕もあるし、特に落ち度があって辞めるわけではないので前任のやり方を引き継ぐのがベターという発想が会社側にも生じる。
クビになるということはやり方がまずかったということで、当然クビになった奴の仕事の進め方を踏襲するというのは合理的でないということになる。抱えていた案件なんかは速やかに他の人に振られるのかな。そして顧客がどう思うか、ということに関しては、顧客側もそういった、担当者がある日突然交代するということに慣れっこだから気にしないのかなと推察してみる。顧客側の企業だってクビが日常茶飯事の可能性だってあるし。「あー、ハイハイ」みたいな。ドライ&ライト。
こういった話は、確かにアメリカ全体の一般的な話ではないのだろう。カリフォルニア州のそれもハイテク業界だからこそかなり特殊な、まるでコメディのような状況になっているのではないだろうか。もちろん優秀な人材には強烈なヘッドハンティングが待っているだろうし。腕に自信のある奴はカリフォルニアを目指せってことか。ゴールドラッシュだね。
それにしても凄いな。クビを通告されてから物理的に退社させられるまでの時間が年々短くなっているというのは面白い。それだけテクノロジーが進化しており、労働者には復讐の機会が増えているということか。しかし9時30分にクビを通告され追い出されたのが9時50分というのは短期決戦にもほどがある。意外と抵抗しないのは、抵抗するだけ時間の無駄だと思っているのか、そういったこともありうると常日頃からの心構えをしているからなのか。よくビジネスではスピードが第一と言われるけど、流石に速度違反じゃないのか。
翻って日本の状況はというと、そもそも退職時に引き継ぎをしなければいけないと就業規則に定めていることがほとんどではないか。少なくとも自分が作るときはそうしている。もっとも本当に引き継ぎをしなければ罰を科すということではない。どちらかというと「急な退職はやめてね」という意味合いが強い。ただ、問題もあって引き継ぎをしろというのを盾に有休消化を認めない会社もあるっちゃある。それは良くない。引き継ぎと有休消化とどっちが強いかといったら有休の方が強い。
なぜかというと、就業規則に「退職時には必要な引き継ぎをすること」と定めていても、所詮は就業規則というのは私法に過ぎない。その会社の中だけで通用するローカルルールだ。一方で有給休暇は労働基準法で定められている。労基法は強行法規で、当然ながら私法よりも効力が強い。なので、現実的には引き継ぎをやって、そのあと有休消化してという形で決着をつけることになる。そのためにもできるだけ早めに退職の意向を伝えてね、と日頃から社員にはいっておくことが望ましい。もっとも個人的には担当していた顧客を後任を連れて巡回して「後任をよろしくね♡」という引き継ぎはバカらしくて好きじゃない。時間の無駄でしょ。会社にとっても顧客にとっても。
こういった記事を見て思うのはそれぞれの国、文化、歴史によって労働法も色々違うんだなぁということだ。いきなりクビになることがないことを持って日本の労働者が守られているとかぬるま湯だ、とは思わないけど。ただ、惰性のように原則として引き継ぎはするものだ、と考えがちな僕にとっては新しい視点を提供してくれる貴重な記事であった。