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無期転換申込みに解雇を通告!日立の流儀~Inspire the Next~

日立製作所が無期転換雇用を申し込んだ女性社員に解雇を通告した。無期転換ルールが施行される際に懸念されていたことが現実になった格好だ。

 

無期転換ルールに関しては以下の記事を参照してください。

2018年問題「無期雇用転換ルール」について徹底解説! - 働き方の変

 

これから解雇の正当性を巡って日立と解雇された女性社員は交渉をしていくことなるでしょう。交渉が不調に終わればその後は裁判に。

 

しかし、これは一従業員にはなかなかハードルが高いことです。日立は大企業なので、従業員と労務管理上の問題で争うことへのさまざまなノーハウを持っている。法務部には勤務弁護士がいるだろうし、びっくりするくらい高報酬の外部顧問弁護士もいるだろう。

 

それに対して裁判に何の知識や経験もない従業員が争うのはかなりの労力だ。尻込みして泣き寝入りする人が多いのが実情だろう。しかしそうなると、企業としてはじゃあ無期転換を申し込まれても解雇すれば勝手に諦めてくれるからええやん!ってなる。

 

そうなるとわざわざ労働契約法を改正した趣旨が骨抜きにされることになる。仮に裁判になった時にどうなるかを推測すると、日立側が分が悪いだろう。

 

一つは、日立は「事業の縮小」を理由に解雇という判断をした。

いわゆるリストラクチャリングというやつだ。君の席はないよ。オッケー。みたいな。

あるいは所属している部門が事業撤退により部門ごとなくなったとか。

 

つまり日立は解雇にあたって、従業員に落ち度(能力不足や勤務不良など)があってのことでない、とひとまず言っている。となると、今回のケースは整理解雇の要件に該当するかどうかということになる。

 

整理解雇の4要件

1.人員整理の必要性(企業の存続にかかわる危機など差し迫った事情があるか)

2.解雇回避努力義務の遂行(経営のスリム化や金融機関の支援、役員報酬の削減等)

3.人選の合理性(合理的で公平な人選か)

4.手続の妥当性(労働者側と十分に協議し誠実に説明したか)

順を追って見てみよう。

 

事業縮小というのであれば、まず第一に経営陣の経営責任が問われる。それはそうだろう。「従業員が頑張らなかったから会社が傾いた」こんなことを言う経営者がいたら失禁する。役員報酬の減額や不要なポジションの削減など、まず経営陣が身を切る必要があります。

 

それでは日立自体の業績はどうなの?というと、2019年3月期と2018年3月期を比較すると売上は9兆4,000億内外であまり変化はありません。本業の儲けを示す営業利益も7,146億円→7,500億円でむしろ上がっています。たしかに経常利益は約6,300億円→4,900億円と大幅減。それに伴い純利益も約3,600億円が1,800億円と半減しています。

 

決算書を読みこんだわけではないので、純利益がここまで下がった理由は分かりません。(時間があったらあとで調べよう)しかし少なくとも本業の儲けを示す営業利益の数字は悪くない。もちろんいま問題ないからといって、この先も潰れないという保証はない。だから経営は早めに手を打っておく、というのも分かります。

 

しかし、他の部署への配置換えとか職種変更とかの、解雇を回避するための努力をどの程度したのかが問われます。これがクビという結論ありきであればやはり不当と言わざるを得ない。

 

手続の妥当性も疑問だ。もし仮にこの女性従業員が無期転換を申し込まなかったら?その時は契約更新されたのだろうか?それとも雇止めになったのだろうか。

 

詳細はこれから明らかになっていくのだろうけど、現状では無期雇用を申し込んだから解雇された、と受け取られても仕方がないだろう。もしもこれが認められるのであればすべての企業が真似をする。「日立(日本を代表する大企業だ!)だってやっている」とお墨付きを与えることになる。

 

とうことで、仮に裁判になったとしてもこの解雇自体が正当な理由を欠き不当なものとして無効とされる可能性が高いと踏んでいる。しかし先ほども書いたように一労働者が個別に裁判をするのはハードルが高い。民事の事案だから行政の介入もあまり期待できない。

 

ますます非正規雇用者は追い込まれるし、なにより授業員へのこうした扱いを目の当たりにしたら優秀な人材がどう思うだろう?日本企業で働いても先が見えないと判断されやしないか。たしかに経営者からすると無期雇用に転換したら、日本の解雇規制の厳しさを考えると将来的な負担が増すと懸念するかもしれない。

 

ただ、有期雇用だって一定の年数雇用していれば、無期雇用者と同等の解雇理由は必要になる。有期雇用だからといってそう簡単に解雇できるわけではないのだ。

 

そもそもこれだけ人手不足といっているのになんなんだ、と思う。

日立は「Inspire the Next」なんてキャッチコピーを掲げているが、これが本当に未来につながる施策なのかな。疑問の残る判断です。