旅行会社の「てるみくらぶ」が破産手続きを開始したそうですね。すでに渡航している人は自力で帰って来てとかサバイバル状態。YOUはどうやって日本へ?な感じです。また予約者には払込金がほとんど戻ってこないとも。
そんな中「てるみくらぶ」にこの春から新卒で入社予定だった人が50人近くいて先日正式に内定取り消しの通告があったということです。ていうか3月末のこの時期にかよ!といった感じで内定者には本当にお気の毒としか言いようがありません。
さて、この内定取り消し、法的にはどうなんでしょうね。
採用内定取り消しとは解雇である
そうなんです。会社は内定を出した時点で求職者と雇用契約を結んだことになります。
厳密にいうと、一定の条件のもとに解約することができる雇用契約を結んだということになります。つまり内定を取り消すということは会社側から一方的に雇用契約を解消することになるので解雇という扱いになります。
解雇の法律的性格
解雇を行うにはいくつかの条件を満たさなければなりません。まずは手続き面。労働基準法では解雇を行うに当たっては以下のように規定しています。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
(労基法第19条:解雇の予告)
この手続きを経ていないと「違法な解雇」となります。
新卒内定の取り消しについては解雇予告が必要かどうか意見が分かれているようですが、どちらかと言うと解雇予告の問題には当てはまらないとされているようです。ただし内定を受けた時点で就職活動を辞めているわけだから、もし内定を取り消すのであれば早めに通告するのが道義的にみても当然ではないでしょうか。
解雇の法的性格②
次は解雇の正当性を考えます。労働契約法には次のように定められています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
理由にもならない理由で解雇された場合は上記の規定に反することになり「不当な解雇」ということになります。ただし解雇の理由が正当なものであるかどうか具体的には法律上定められていませんので個別に裁判で争うことになります。
採用内定取り消しについて
さて、内定については‟一定の条件のもとに解約することができる”雇用契約であると先述しました。では一定条件とはどういうものでしょうか。採用内定時に知ることのできなかった特別な事情が発生した場合に内定取り消しが認められる可能性があります。
ザックリまとめるとこんな感じです。(新卒の場合、中途採用はまた別)
①卒業ができなかった
②健康状態の悪化
③重大な学歴・経歴詐称が発覚した
④経営状況の著しい悪化
上記のうち①~③は学生の側に責任がある場合で、会社の主張も割と認められやすいと思います。④は完全な会社都合です。「てるみくらぶ」問題もここにあてはまるのでしょうか。
悪質な感じがする「てるみくらぶ」の新卒採用
経営状況の著しい悪化というのは例えば予想できないような大規模災害が起きたとか、リーマンショックのような経済情勢の著しい変化とかそういう場合を想定しています。翻って「てるみくらぶ」はどうでしょう。単に経営の見通しが甘かっただけではないでしょうか?しかも3年前から粉飾決算を行っていたといわれています。さらにさらに従業員80人程度の(粉飾決算をするほど経営状態が悪い)会社が50人も新卒採用を行ったというのはどういうことなんでしょうね。もうメチャクチャです。
つまり正当な理由のない内定取り消し=不当解雇に該当する可能性がかなり高いです。
内定取消された人たちができること
「てるみくらぶ」に内定取り消しを受けた人たちは何ができるのでしょうか?
3月のこの時期になっていきなり内定を取り消されたわけだからまた就活をしなければなりません。(僕は好きではないですが)新卒カードという切り札も失って。
なので生活保障や精神的被害を受けたことに対する損害賠償請求ができます。
例えばもらえるはずだった給与の3か月~6か月分とかね。
ただ…「てるみくらぶ」破産するんですよね。なにしろ予約申込者に戻すお金すらほとんど無いっていうじゃないですか。となると損害賠償請求が認められても現実にお金を取れる可能性は限りなくゼロに近いです。
内定者の中には就職にあたり地方から上京するので賃貸物件を借りた人もいるようですからそのあたりの引っ越し費用とか敷礼金とか生活品購入費用とか取り戻せる可能性がほぼないというのはなんとも可哀想な話です。しかもまた就活をしなきゃならない。
こんなことで若い人が働くことを嫌いにならなきゃいいのですが…
その意味で「てるみくらぶ」の責任はメチャクチャ重いです。
無責任企業天国・日本
見てきました通り、「てるみくらぶ」による採用内定取り消しは正当な理由のないもので不当解雇に該当する可能性が高いものの、現実的には損害賠償請求をしても何も得られないと思われます。
会社が人を雇うということはその人の人生に対して少なからず責任を負うということなので今回の様な無責任企業には本当に怒りを感じます。
それにしても…これから学生は就活の際にその企業が粉飾決算をしてないかどうかまで見抜く力が求められるのでしょうか。就職氷河期世代の僕ですが、さすがにそれはあんまりだろうと思うと同時に自分の子どもには本当に小さいころから自分で生きていくスキルを教えた方がいいなとつくづく感じさせられました。
内定取り消しについて法的にはどうなるのかというお話でした
ではまたね!