ジンジャーエール

辛口エールで一杯ひっかける

セクハラはマナーやモラル違反という話ではない

麻生大臣やある種のオジサンたちはどうしてもセクハラというものを「言葉あそび」程度に矮小化したいらしいです。いくら何でも時代錯誤だと思うんですけど。

セクハラ罪という罪はない

ハイハイそうですねー。たしかにセクハラ罪という罪はありません。麻生大臣は「事実を申し上げただけ」と言っています。しかし財務省は福田元事務次官の行為をセクハラと認定して懲戒処分相当の退職金減額をしています。対して福田元事務次官は自身のセクハラ行為を認めていません。さて、財務省のトップである麻生大臣が財務省の決定よりも福田氏の主張を擁護するのに僕は違和感を覚えます。財務省がセクハラ認定をしている以上セクハラ被害者は存在するわけです。なのにそのトップが被害者感情を無視するような発言を繰り返すのはどうしてなのでしょうか。

セクハラはモラルやマナーの話なのか

これについて小林よしのり氏が麻生大臣を擁護しています。

麻生太郎は事実を言っただけじゃないか!
セクハラが「モラル」としてダメということ、「マナー」として美しくないということくらい、麻生大臣も知っているんじゃないのか? 

 (小林よしのりブログ「あのな、教えたろか」2018年5月8日報道ステーションのセクハラ欺瞞より引用)

なんだろうこれは。「セクハラが美しくない」というのはいったい誰目線なのだろうか。明らかに男性目線じゃないかな。セクハラをするのは男性としてスマートで美しくないからおかしい、というのはおかしい。女性に選択権はないのかい。男性がみなセクハラは美しくないと共通認識を持てば女性はあぁありがたや!セクハラから解放されるというわけですか。んなわけあるか(笑)

セクハラ罪は自由を狭める?

小林よしのり氏はセクハラ罪など作ってはいけない、とも言っています。

セクハラに対して、罰を与える法律を作るべきと言うなら、やってみな。
共謀罪と同じ「自由」を著しく損なう危険な法律になるだろう。 

  (小林よしのりブログ「あのな、教えたろか」2018年5月8日報道ステーションのセクハラ欺瞞より引用)

セクハラ罪はいったい「誰の」「どんな」自由を奪うというのでしょうか。現状セクハラ被害を受けている女性の「平穏に社会生活を送る」というごく当たり前の自由が奪われていることについてはどう考えてるのでしょうか?小林よしのり氏が想定している自由が奪われるのは明らかに男性でしょう。もちろん冤罪の可能性はあります。しかしこれは被害を訴える側に挙証責任があることや、現状の判例などでも何でもかんでもセクハラと認定されるわけではないことを考えれば一定の抑止にはなるでしょう。セクハラの場合は痴漢と違って、加害者は仕事上の関係者など顔見知り以上の存在であることがほとんどです。そもそもセクハラと共謀罪を同じレベルで考えているのが解せません。どうして国家権力の暴走への懸念と卑劣な性犯罪の抑止を同列に語るのでしょうか。

セクハラの範囲は実に広い

セクハラの範囲はとても広いです。職場で既婚女性に対して「ダンナと子づくりしている?」というオヤジ丸出しの(福田元事務次官風に言えば)言葉遊びから、ボディタッチのような強制わいせつもあります。また、仕事上の立場などで被害者が抵抗しづらいことをもって「合意があった」と勘違いして性交にまで及ぶ場合もあります。こうなるともはや強姦レベルです。一般にセクハラは相手が強く拒否したり、周囲から止められるなどということがなければエスカレートする傾向があります。実際に上司と部下の関係で、最初は軽い下ネタトークをしていて、部下の女性が話に乗ってくれてたのを「イケる!」と勘違いして最終的に自分のタケノコ坊やを自撮りして写メで送り付け「さぁ君も裸婦像(似非現代アート風味に都会の癒しを添えて)を送ってよ!」とメールした阿保がいました。部下の女性はさすがにこれは、と思い人事に相談。当該上司は懲戒解雇になりました。このようにセクハラは相手が抵抗しないと見るや、いとも簡単にエスカレートします。

セクハラ罪はない

いや確かにセクハラ罪はないですよ。でも上記のようにセクハラにもいろんな段階がありエスカレすれば刑事罰もある。それを知っていればとても「セクハラはマナーやモラルの問題」とは言えないはずだ。むしろ軽微なセクハラ行為を繰り返している人間は性暴力依存の犯罪者予備軍ではないだろうか?と疑いを持つことだって必要なのではないでしょうか。ハッキリ言ってビョーキですよ。ニコチンやアルコール依存と変わらないのでは、とさえ僕は思います。セクハラ罪という法律を作ればすべてが解決するとは僕も思ってません。ただ世間一般に、セクハラ常習者は治療が必要なビョーキに罹っていることはもっと認知されるべきだとは思います。そして被害者が救済されにくい現状も是正されるべきでしょう。

日本は遅れてない?

小林よしのり氏は世界のどこでもセクハラはある、と論じています。

セクハラは欧米でも消滅してはいない。
日本だけが遅れているんじゃない。
男尊女卑はフランスでも残存している。 

   (小林よしのりブログ「あのな、教えたろか」2018年5月8日報道ステーションのセクハラ欺瞞より引用)

あぁこれはどういうことなんだろう。僕は小林よしのり氏は(「勝ってる戦争はカッコイイ」などのちょっとアレな主張はあるものの)知識人だと思っていました。でもセクハラ問題に関してはどうやらそうではないらしいです。仮に欧米でセクハラが消滅してないからといって「日本だけが遅れているわけではない」という主張がなぜできるのか不思議で仕方がない。「アイツが赤信号を渡っているからオレも渡ろう」と同様で論理的ではない。実際は欧米でもセクハラは存在する。ただ日本は異常なほどセクハラへの理解や対策が超遅れている。これが事実だろう。となれば今の日本の状況はかなりマズいと感じるのが普通ではないのか?

異常な被害者叩き

日本のセクハラの異常性を感じさせるのが、執拗な被害者叩きです。被害者の素性を暴き出して、晒し者にして、真偽不明なデマで貶める。また女性の側にも隙がある、落ち度がある論も一定の支持を得ます。山口達也氏の問題でも被害を訴えた未成年者に対して信じられない罵詈雑言を浴びせる人たちがいましたね。もちろん欧米でも女性差別主義者がネット上などでそうした言動をすることがあるでしょう。しかし日本ではワイドショーなどの地上波で堂々と被害女性にも落ち度があると言わんばかりのコメントをするコメンテーターや芸能人がいます。ハッキリ言って異常でしょ。こんな現状をみて「日本だけが遅れているわけではない」なんてよく言えるなー。

時代は変わる

話は変わるが張本勲氏が大谷翔平に「走り込みが足りない」といったところ「考えが古い」と猛批判を浴びました。たとえばスポーツ中に水分をとってはいけないとかうさぎ跳びとかいまでは害が大きいとして否定されています。また長時間労働を美徳としたり一社に勤め続ける忠誠心が持て囃された時代もありましたが、いまこうした価値観を持っていたら鼻で笑われるでしょう。そう。時代は変わるんです。セクハラなんて大した問題じゃないと考えているオッサン達はそのことを認識しなければなりません。

 

セクハラはマナーやモラルに反するから批判されるのではありません。

深刻な性犯罪に発展する危険性があり、被害者の人格を無視した人権侵害なのであるから批判され、撲滅しなければならないのです。