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東大の大澤昇平特任准教授に対する懲戒解雇は有効だろうか?

昨年末にSNS上を騒がせた大澤昇平という東大の“最年少准教授”による暴走暴言。人種や民族、女性蔑視からはては陰謀論まで非常に多彩な(?)暴言の数々を残しています。そんな大澤氏に対する東大の懲戒解雇処分は妥当なのでしょうか?

 

ネット上を騒がせた数々の発言

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結論からいうと、東大が大澤昇平氏に対して懲戒解雇処分を下したというのはやむを得ない判断であり、処分としても妥当だと思います。

 

もともとの発端は大澤氏がツイッター上で行った「中国人は雇わない」という特定の国籍や民族を差別していると捉えかねられない不用意な発言によるものでした。ネット上の批判に一度は謝罪したものの批判がおさまらなかったことから拗らせたのか、元からそうした思想を持っていたのかは分かりませんが発言はエスカレートしていきます。

 

東大の研究室からの立ち退きを命じられると「言論弾圧だ!」と激昂し、特に同僚の女性準教授が大澤氏を排除するよう強硬に主張していると思い込み「高学歴女性は左翼になりやすい」というようなよくわからないことも発言していました。

 

さらに東大は「反日勢力」に支配されている!とまで言い出したときはもはや正常な判断をできない状況ではないかと心配になるほどでした。僕自身すべてではないですが、大澤氏の一連の投稿を見ていて「だいぶやばいな」と感じました。

有期雇用者の懲戒解雇処分

有期雇用者の契約解除(解雇)は無期雇用者へのそれよりもハードルが高いといわれています。

期間の定めのある労働契約(有期労働契約)については、あらかじめ使用者と労働者が合意して契約期間を定めたのですから、使用者はやむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間の途中で労働者を解雇することはできないこととされています(労働契約法第17条)。そして、期間の定めのない労働契約の場合よりも、解雇の有効性は厳しく判断されます。 

 (厚生労働省:労働契約の終了に関するルール|厚生労働省

 

大澤昇平氏の一連の発言は、東大が有期雇用契約を終了させ解雇もやむを得ないと判断するほどのものだったのかが争点になります。

 

処分にあたり東大は以下のように処分にかかる事実関係を纏めています。

<認定する事実>
 大澤特任准教授は、ツイッターの自らのアカウントにおいて、プロフィールに「東大最年少准教授」と記載し、以下の投稿を行った。
(1) 国籍又は民族を理由とする差別的な投稿
(2) 本学大学院情報学環に設置されたアジア情報社会コースが反日勢力に支配されているかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿
(3) 本学東洋文化研究所が特定の国の支配下にあるかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿
(4) 元本学特任教員を根拠なく誹謗・中傷する投稿
(5) 本学大学院情報学環に所属する教員の人格権を侵害する投稿 

 (東京大学:懲戒処分の公表について | 東京大学

 

そして大澤昇平氏の言動は

東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則第85条第1項第5号に定める「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」及び同項第8号に定める「その他この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があった場合」に該当する

 ため懲戒解雇処分とした、と発表しています。

 

懲戒処分を行うには、就業規則等に「どんな場合に、どのような処分を受けることになるか」と処分の根拠を記載しておく必要があります。たとえば遅刻や無断欠勤をしてはいけませんという規定がない状況で、実際に遅刻や無断欠勤をする人を処分することはできません。

 

そのためできるだけ具体的な事例を記載しておくことが望ましいのですが実務上は「その他懲戒規定に準ずる不都合な行為があった場合」という文言を入れておくことで対応することが多いですね。上記の引用文でわかるとおり東大も懲戒根拠として「名誉信用を傷つけた場合」と「その他~」を併記しています。

懲戒処分に至る手続きは適切だったか

懲戒処分を行うにあたっては、手続きが妥当だったかどうかも問われます。

 

相手に弁明の機会も与えず、ろくな調査もせずに一方的に処分を下すことはやはり許されないでしょう。良く仕事では遅効よりも拙速の方がいい、と言われることがありますがこと懲戒処分を下すにあたっては拙速は絶対に禁物。

 

東大が大澤昇平氏にどのような調査をしたのか、弁明の機会がどの程度あったのかは分かりません。まあ調査と言ってもツイッター上で公に発言していますので不適切な言動の内容を確認するのは容易でしょう。

 

ハッキリとはわかりませんが、東大は大澤氏に報告書的なものを出す機会を与えていたようですね。しかし大澤氏は提出せず、口頭で弁明したということを自身のツイッターで明かしています。それであるならば弁明の機会は与えられていたことに(少なくとも表面上は)なるのではないでしょうか。

懲戒解雇は重いのか

あと「懲戒解雇」という処分が重すぎるのではないか、という疑問があるかと思います。たとえば始末書提出とか減給とかもう少し軽い処分でも良いのではないかと考える人もいるでしょう。

業務外での問題行動

そもそも当初大澤氏も「個人の発言であり、文句があるなら自身の会社であるDaisyに言え 」みたいな主張をして予防線を張っていました。しかし「東大最年少准教授」を売りにしていたことから東大が一連の言動を問題とみなして、東大として処分をするのは妥当だと考えます。

 

業務外での非行を理由として懲戒処分を行うことの妥当性は判断の割れるところですが、軽微な罪(酒に酔って民家に侵入とか)であれば懲戒処分は難しいでしょう。

 

しかし差別は頂けません。ましてや大学という開かれた場で、そこで授業を受け持つ人物が人種差別や女性蔑視の思想を隠さないのは大学の信用やイメージを著しく損なうものでしょう。

懲戒解雇の重み

問題が大きくなった後も反省の色を見せず、むしろ「東大は中国共産党に支配されている」といった荒唐無稽な陰謀論を展開していたのは重大なマイナスポイントですね。

 

通常一発解雇というのは相当にハードルが高いです。裁判では解雇無効とされるケースも結構あります。しかし今回は反省がなく発言もエスカレートしていることから更生の余地なしとみなされたのでしょうし、おそらく裁判になってもその点は厳しく判断されると思います。

 

大澤昇平氏は「言論弾圧だ!」と言っていました。不思議なんですがなぜ差別主義者は「差別する自由がある」と思うのでしょうか。差別する自由などありません。

最後に

長くなったので、このへんで筆を置きます。

 

僕は今回の東大が下した懲戒解雇という処分は極めて妥当だと思います。不当な扱いとはいえないでしょう。仮に裁判をしても大澤昇平氏の勝てる見込みは低いと踏んでいます。むしろ東大のイメージを損なったとして大学側から損害賠償でも請求されるのを心配した方がいいレベルです。

 

大澤昇平氏は実名でSNSを行っていましたが、過去には匿名で差別的発言を行っていたのが身バレして職を追われたケースというのは数多くありますね。昨年は世田谷年金事務所長が更迭されました。直近では代ゼミの講師が同様のケースで問題になっています。追って処分がなされるでしょう。

 

SNSは個人でやってることだから業務外だ、職場に影響はないだろうという考えは通用しなくなっています。特に差別的投稿に対しては厳しく罰せられるのが当然となっています。懲戒解雇になれば地位も収入も将来の展望も失うことを肝に銘じたいところです。