そこにはやたらと仕事のできるフリーランスがいる。
いくつもの難易度の高い資格を持ち、仕事は早く正確。ムダを嫌い日本的な労働慣行とは無縁で自分を貫き通す芯の強さがある。残業はバカがやることだと内心思っており、自分で仕事の配分を決められるフリーランスを天国だと考えている。あぁまだサラリーマンやってるの?時代はフリーランスだよ!
デジャヴ。いつか見た景色。たぶん2007年くらい。十年一日。人の記憶はもろく、痛みはいつか慣れるもの。
TVドラマのハケンの品格が放送されたのが2007年。その前後には派遣会社のCMが大量にテレビを占拠していました。バブル崩壊後の日本で、もはや正社員として生きていくのは難しいです。そんな人たちに救いと希望の手を差し伸べたのがハケンの品格。
むしろハケンって生き方のほうが自由で、自立してカッコいいんじゃね?
いまさら正社員になってやれノルマだ、競争だ、社内政治だ、しがらみだのに縛られるより“できるハケン”の方がいい。残業をせずに余暇を大事にできる。できるハケンなら正社員と同等かそれ以上の収入だって期待できる。新しい生き方、働き方だ!
そして2008年。年越し派遣村。不透明なマージンや違法な天引き、偽装請負二重派遣なんでもあり。正社員との待遇格差。用がなくなれば契約終了される様はまさに雇用の調整弁。昨日の同僚が今日はいないなんて日常茶飯事すぎて誰も気にしない職場環境。下手したらポイーされてたのは自分かもしれないしね?
新しい働き方、生き方と宣伝されたハケンはわずか1年後にはその醜悪な実態を世に晒すことになりました。年も越せないワープア、ネットカフェ難民。彼らは今どこに?
ハケンの品格とはなんだったのか。なぜあんなにきらびやか風に宣伝されたのか。
もうわかってることだと思うけど派遣推しは、派遣制度を拡大したい派遣会社と派遣社員を必要とする企業群による強力タッグです。
バブル崩壊やグローバルな競争で体力が落ちた企業。正社員の数はできるだけ減らしたい。しかし仕事はしなければならない。そこでいつでも首を切ることができる調整弁が欲しい。はい派遣社員。
規制緩和で派遣の範囲が広がりを見せさらなる収益アップを目指したい派遣会社。何しろ商品は人。製造するための原価が不要(まぁ入社時に教育訓練などはするけど大して高度なものでもなしそれほど費用がかかるわけじゃない)。大掛かりなハコも不要、製造コストも不要。ただ人を集めてそれなりに管理しておけば収益を運んでくれる。はい派遣社員。
利害が一致したから、あとはいかに世の人々を派遣社員に仕立てるか。
人気俳優によるテレビドラマ(もちろんそこでは派遣社員は仕事ができ、正社員と同等稼ぎがあり、しかし会社には縛られない憧れの存在として描かれる)、人気タレント出演のCMをバンバン流す。イメージ戦略。マーケマーケマーケ。
しかし時給3,000円の派遣社員なんてほぼいません。現実。だいたいは時給900円とか1,000円程度。残業?もちろんあるよ。格差?当たり前だろこの非正規め。仕事を選ぶ?雇われるだけありがたいと思え。思い描いていた派遣の生活と違うって?そりゃそうだ。ハケンの品格なんて創られたイメージに過ぎない。
舞台は2018年。
できるフリーランスがいる。クライアントと対等に交渉し、気に入らない仕事は断る。それでも腕がいいから依頼は次から次に舞い込み、収入は会社員時代の数倍。でも残業はなし。週休2日はあたりまえ。家族や友人と大いに遊ぶ時間があって充実した人生を過ごしてます。自己実現。マズロー先生、僕人間の欲求のうち考えられる最高の域に達したよ!褒めてよマズロー先生。
さて、現実はどうでしょう。
やっすい報酬で、嫌なら他の人に頼むからいいよの死刑宣告に怯える日々。できるフリーランスとの差は紙一重どころか壁百枚。
労災?なし。
年金?雀の涙(国民年金は40年間休まず払っても7万円に足りない。)
有休?休んでなんかいられない。
賞与?誰か恵んでください。
経産省はフリーランスを推進しています。
「雇用関係によらない働き方」に関する研究会を立ち上げています。この研究会のメンバーがまたスゴイ。
クラウドワークスの取締役とか、ランサーズの役員とか、元パソナの人とか。他にもリクルートワークス研究所の人とか人材サービス系の起業家と大学の先生。
あれ?
フリーランスの人やフリーランス予備軍の労働者がいないぞ。彼らの声はどこに。誰がために鐘は鳴る。
どっちかっつーと、フリーランスが増えれば利益が出る企業に関係のある人たちばかりだよね。まさか。。。新しい時代を告げる鐘の音じゃなくてむしろ金の音。チャリーン。
あと、単純な話、企業にとってはフリーランスが増えるのは人件費の面からありがたい話です。だって社会保険料の負担が減らせる。労災保険料だって安くなる。残業代なんて概念が不要。いつでも契約終了可能。
派遣への風当たりが強まる昨今、フリーランスこそ企業が待ち望んだ新しい働き方なのかもしれません。
もちろんフリーランスで成功すれば、自分らしく働くことは可能でしょう。
しかし日本の商習慣や教育過程*1の現状を考えると、成功するフリーランスはかなり限られると思います。フリーランスで成功する人は、たぶん企業に勤めていても成功しています。
企業からしたら、企業にいても成功するタイプのフリーランスにはあまり用はありません。用があるのは“成功しない”タイプのフリーランスです。生かさず殺さず搾取できるのはこのタイプです。
企業の収益を高めつつ、人件費の大幅な削減を可能にする。なおかつ今いる社員のうち一定のスコアに満たないものを「アウトソーシングするから」という理由で切ることもできる。
何がヤバイって、今のフリーランスを持ち上げる風潮が経産省とかお上や企業側から積極的に発信されていること。
いまからおよそ10年前「派遣という新しい働き方、生き方」が持て囃されました。それと同じ匂いがします。
フリーランスという働き方を否定する気は全くありません。
それどころか、本当の意味でのフリーランスー自分の腕を磨き、企業と対等に交渉できるプローがもっと増えれば面白い世の中になるとすら思っています。
しかし現状では、またぞろ搾取の対象になるだけなんじゃないか、という一抹の不安もあります。
これからフリーランスを目指す人も、すでにフリーランスの人もお金のことや契約のこと下請法など自分の身を守るための最低限度の勉強はきちんとしておいた方がいいと思います。
2020年。東京五輪後の都内某所の某公園に年越しフリーランス村が設置されるなんてシャレにならないからね。
*1:契約軽視、お金のことを教えない学校教育、民法や労働法を学ぶ環境の少なさ