ジンジャーエール

辛口エールで一杯ひっかける

「起業しろ」の裏を読む力

馬鹿の一つ覚えのように「起業しろ」という人がいる。確かに昨今は起業へのハードルが下がっている。法人なんて昔は作るだけで300万or1,000万は必要だったけど今は1円でもOK。もちろん実際に資本金が1円なんて会社を作っても信用は低いが。個人事業主ならなおさら簡単。「起業しまーーす」と言って開業届を出せばいい。サクッと起業時代です。

 

インフルエンサーはなぜ起業しろというのか

最近なにかとオンラインサロンが注目を集めている。特に注目度の高いのが主催者が口を開けば念仏のごとく「起業しろ」と唱えているやつ。

 

会社を辞めろ、大学を辞めろととにかく起業を促す。起業しない奴は時代の波に乗れないバカだと言わんばかりの勢いで。そうした口車に乗って実際に会社や大学を辞めてフリーランスになる人もいるようだ。そして残念なことに大半の人は夢破れて消えていく。起業して成功した例というのをついぞ聞かない。今起業を考えている人たちに一度考えてほしい。なぜインフルエンサーは起業しろというのかを。

インフルエンサーは良い人か

インフルエンサーはとにかく起業は良いものだと説く。会社に縛られた生き方ではこの先の時代を生き残っていけない。だから1日でも早く起業しろ。社畜のような生き方から抜け出すんだ、と。

 

主張を聞けばもっともに感じる部分もある。終身雇用も年功序列もとっくの昔に崩壊している。これからは主体的に仕事に取り組める人でないと満足な仕事にはつけないだろう。fromアクティブラーニングtoアクティブワーキング。働き方もだいぶ変わってきた。職種によっては必ずしも出勤する必要はない。テレワークは今後間違いなく増える。なぜかというと国がテレワークを推進したいと考えているからだ。PC1台あれば完結する仕事はこれからも増えるだろう。

 

そうした時代の先を読んだ賢い人が、そうでない人、情報に疎い人を導いてくれる。インフルエンサーのありがたいお言葉。

 

果たしてそうだろうか。インフルエンサーは良い人だから貴重な助言を与えてくれているんだろうか。疑い、見極める力を持つことも起業する上では必要だ。

 インフルエンサーの立場から見た起業家

インフルエンサーがなぜ起業を勧めるのか。それを理解するには彼らの立場で考えてみることが必要だ。

起業家仲間募集

起業家仲間がたくさんいた方が楽しいじゃん!人気漫画ワンピースでは主人公のルフィの有名なセリフがある。「海賊王に俺はなる!!」(ドン!)だ。しかしルフィ一人では海賊王にはなれない。そこで仲間を集める。航海に必ずしも必要ない音楽家にこだわるなど多分にルフィに趣味もあるだろうが…。要は厳しい道のりも仲間とともに進めば怖くないし、より大きな成果を達成できるじゃん?的な感じだろうか。

 

もちろん閉塞した世の中に風穴を開けたい、面白いことをしたいと考えどんどん他人に起業を勧める人もいる。しかし一方で、どんどん起業家が増えればライバルも増えて自分の取り分も減ってしまうのではないか。インフルエンサーはそんな小さなことは気にしないんだろうか。こんなことを考える僕は迷える子羊なんだろうか。

インフルエンサーは起業家をライバルとは見ていない

子羊にとっての天敵は?誰が子羊の安全を脅かすのだろうか。それは腹を空かせた餓えた狼だ。子羊は群れをなす。そうすれば身を守れる。数は力だ。

 

しかし本当にそうなのだろうか。数がどれだけいたって子羊は子羊だ。狼の一撃にはひとたまりもない。単に自分の番がいつ来るか、早いか遅いかの違いがあるだけだ。むしろひとかたまりになっているのは狼にとっては好都合だろう。当分食いっぱぐれない。

 

羊は狼のライバルにはなり得ない。ああおばあさん!どうしておばあさんのお口はそんなに大きいの?

 

それはね、、

起業家のお財布事情

起業を考えた時、あるいは実際に起業する際に人は何を考えるだろう。もっと言えば何にお金を使うだろう。特に明確な目的があって起業する人以外で考えてみてほしい。

一番お金を持っているのは起業した時

会社員が退職して起業する際に、全くの無一文で起業する人はそうはいないだろう。しばらく仕事がなくても食っていけるようにしておくためだったり、必要な設備投資に使えるようにと蓄えをしていることがほとんどだ。毎月の給料からコツコツと貯金していたり、賞与や退職金。または金融機関からの借り入れをする場合もある。

 

人は何か大きなことをしようとする直前がもっともお金を持っている時期だ。結婚式をするとか家を買う場合を思い浮かべるとわかると思う。起業でも同じだ。そしてここが大事なことなんだけど、インフルエンサーはそのことを知っている!

起業時は財布の紐も緩みやすい

起業直前期または直後は起業後よりもお金を持っている。そして多くの人はお金がたくさんあると気が大きくなる。「まだこんなにあるじゃん、多少使っても大丈夫」と。

 

そしてお金を使うことを理由をつけて正当化する。よくある理由は「投資」だ。起業家は大金をはたいても「これは将来への投資だから」と自身の行為を正当化するような思考をする。これから大きなリターンがくるんだから、と。

 

残念なことにこういう人たちの多くはそのリターンがいつ、どんな形で、いくらくらいになるのか具体的な絵を思い描いてない。なんとなくフワッとした雰囲気で考えている。だからいつまでたっても一向にリターンを得られない。 

 

そしてある日気づく。あれ?ヤバイじゃん。

「起業しろ」と言われて起業する人はバカ

現実を直視する必要がある。人から「起業しろ」と言われて「そうか起業しよう!」と考える人は成功しない。なぜなら自分の頭で判断できないバカだからだ。残念ながらそういう人は会社に勤め続けた方が幸せになれる。もしもまだ学生なら就活して就職しよう。

起業は決断の連続

起業したら常に決断を迫られる。起業する場所、顧客はどの層を狙うか。商圏は。価格や商品展開。客との交渉。極端に言えば撤退や廃業まで。決断決断また決断。

 

ああそれなのに。起業するという決断すら人から言われてするような人が起業後の決断人生をやっていけるのだろうか。

 

そもそも起業というのは必要に迫られてするものだ。起業家は起業しなければ生きていけないのだ。会社ではこれ以上成長できないとか、自分のやりたいことができないとかそういう切実な思いが人を起業に向かわせる。もちろん失敗することもある。実際に廃業して会社勤めに戻る人もいる。それでもその時自分にとってベストな決断が起業することであれば問題ない。

 

状況なんて人によって千差万別だ。起業に向いてない人や、今がそのタイミングじゃない人がいても不思議じゃない。ではなぜインフルエンサーは口を尖らせて「起業しろ」と言うのだろうか。そんなに他人の人生を心配する良い人なのだろうか。

起業家は寂しい存在

仕事でこれまで多くの経営者にお会いしてきた。 僕の場合、顧客はほぼ法人の代表や個人事業主だ。彼らから感じるのは孤独感だ。どんなに人脈があり周囲に人が絶えない社長でも孤独を抱えている。そしてそれは通常表に出せない。社員や取引先、同業者はもちろん家族の前でさえも。わずかに僕ら士業の前ではそれを見せる。それは僕らに守秘義務があり、かろうじて愚痴をこぼせる相手だからだろう。もちろん愚痴をこぼしても大丈夫と思えるような信頼関係を築くこと前提だが。

コミュニティの魅力

確固たる信念があって起業した人、ちゃんと勝負できる武器を持って起業した人でもこの孤独から逃れることはできない。ましてやなんの信念もなく、人から言われてとか世間に流されて起業した人にとってはなおさら重くのしかかる起業家の孤独問題。

 

そうした人たちにとってコミュニティの存在はどれだけ光り輝いて見えることだろう。仲間がいる!白熱灯に吸い込まれる蛾のように群がる。人は何かに所属したがるものだ。所属することで安心をしたい。同じような境遇の人間がいることで、悩んでいるのは自分だけではないと安心する。しかしよく考えてほしい。同じような境遇の人間がいてそれに安心したからといって、自分の抱えている問題が解決するわけではない。単に「ああ他にも同じような人がいるんだな」と言う感想以上の意味はない。

 

 コミュニティに所属することの問題はまだある。それは所属すること自体が目的になりがちということだ。コミュニティに入ること自体が悪いわけではない。ちゃんと意味を考えましょうね、ということだ。はっきりいって所属すること自体はお金さえ払えば誰でもできるわけでしょ。それは何かをしたことにはならない。コミュニティをどこまでビジネスに繋げられるのかを冷静に判断しなきゃいけない。

 

しかしインフルエンサーに踊らされて起業する人はそこがわからない。主体性を持って起業したわけではないから、そもそも主体的に動くということが理解できてない。自分では主体的に動いたと思ってても、はたから見たら全然そうではないということが多いのだ。

インフルエンサーには勝てない

その点インフルエンサーは賢い。経験もある。主体性なく起業した人間などお釈迦様の手の上の孫悟空だ。いや孫悟空はまだ地力が多少なりともあるからましだ。「起業しろ」と言われて起業する人間などインフルエンサーにとってモブでしかない。孫悟空にすら蹴散らされる雑魚以下だ。身もふたもない言い方をすると意識だけは高い起業家からお金を巻き上げるのはそう難しいことではない。

 

仕事や就活で悩んでいる人がいる。そこに収入はサラリーマンの何倍にもなる、しかもサラリーマンのように時間や身分が縛られるわけではない、早く起業すればするほど有利と言われれば飛びついてしまう気持ちもわかる。不安を煽る商売というのは一番楽に儲かるんだ。

 

健康とか老後とかの不安を煽る商品が世の中にはいっぱいあるでしょ。飲むだけで癌に効くとか普通に考えたら怪しい。でも癌になったらどうしようと怯えている人には効く。老後にこれだけのお金が必要ですよっていったって住んでいる場所や普段の生活にかけているお金など人により状況は違う。乱暴にまとめていくらは最低必要ですなんてのは言えないはずなんだ。でもそう言われれば、そんなもんかとわけのわからない投資に手を出してしまう。過度に不安を煽り、でもこれを使えば安心!というような奴には最大限の警戒を払う必要があるんだ。

インフルエンサーを研究しろ

もちろん世の中には良いインフルエンサーもいる。ちゃんと正しい情報を流してくれる存在が。それをどう見極めるかが運命の分かれ道になる。

 

そこで大切なのがインフルエンサーを研究することだ。あるインフルエンサーに興味を持ったとする。そこで盲信してしまうのはダメ。会社員には思い出してほしい。就活の時企業研究したよね。業界でのポジションは?規模は?社風は?どんな製品やサービスを展開している?ライバル企業は?将来性は?入社したらどんなことができる?

 

なんとなく企業の名前を知っているからというだけで受ける人は失敗する。例えばあるオンラインサロンが魅力的に思えた。入ってみようと思ったとする。まずはそのオンラインサロンや主催するインフルエンサーの情報をできる限り集めよう。その時注意しなければならないのは確証バイアスだ。良い情報だけを見るのではなく、反対意見や批判の声にも目を通すこと。

 

アマゾンレビューなんかそうだよね。星5つばかりのやつは逆に怪しいでしょ。だから星1つや2つをつけている人のレビューを読む。オンラインサロンやインフルエンサーでも同じ。確証バイアスに気をつけ、可能な限り判断材料になる情報を集める。就活の企業研究のように、実際にそこに所属する人にリアルな話を聞くのもいい。あるいは元所属していた人に。

 

こうした研究を怠る人はそもそも起業してもうまくいかない。商圏やライバルを調査研究するのは当たり前のことだ。業界の将来性や競争率などを研究して見通しをある程度つける。あるいは差別化のためのヒントとする。たかがオンラインサロンに入るくらいのことでも研究を怠るようでは先が思いやられるよ。だからサロンやその主催者のインフルエンサーを徹底的に研究しよう。お前家族かよ、というくらい知ろう。良い面も悪い面も。判断するのはそれからだ。

「起業しろ」からの脱却

 インフルエンサーが「起業しろ」という時、その裏には必ず意図がある。これまで見てきたように、起業時は最もお金を持っており、お金を使う時期でもある。彼らの狙いはそれだ。自分にお金を落とさせたいのだ。

 

起業にはリスクが伴う。起業しろというインフルエンサーは、仮に煽られて起業して失敗した人がいても「それは自己責任だ」という。僕は思うんだけど、自分の門下から成功者が出れば結果として自分のブランド力の強化になるわけだから、まともなインフルエンサーならできる限りのバックアップはすると思うんだよね。もちろん最終的な責任は自分自身が負うものだ。起業とはそういうものだから。しかし煽っておいて自己責任だから知りませーーんというような奴は最も信用ならない。

 

門下生が成功しようがしまいが彼らは興味がない。寒々しいほどの現実。彼らのようなインフルエンサーにとっての成功とは自身の経済力が上がることだけなんだ。周囲の人間が成功するかどうかなんて興味の範囲外。

 

インフルエンサーが「起業しろ」といった時に誰が最も得をするのかを考える必要がある。そうした時にそれが心からの忠告なのか、インフルエンサーの欲求を満たすためだけのものなのかが見えてくる。

 

最後に。起業はいつでもできる。冒頭に書いたように起業へのハードルは低い。だからこそよく考えよう。本当に起業しなければできないのか。会社勤めと並行できないか。あるいはその起業は自分にしかできないことなのか。

 

サクッと起業とよく言われるが、むしろ逆だ。廃業するときこそサクッとした方がいい。そして起業する際にはとことん悩んだ方がいい。