ジンジャーエール

辛口エールで一杯ひっかける

家族がインフルエンザになった場合の休業命令と休業手当の関係について

ちょっと気になった。

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この記事を書いたのは社会保険労務士だそうだ。

 

内容をざっくり書くと、社員の家族がインフルエンザに罹った→職場で感染拡大しても困るから社員を出勤停止にする(この社員自体はこの時点ではインフルエンザかどうはわかってない)→ノーワーク・ノーペイの原則により休業中の給料は支払わなくても良い→一般的には有休で処理する

 

という主張である。記事をよく読めば軽々に出勤停止をするのは良くない、ルール作りが必要、看護休暇などもあるし場合によっては特別休暇などを設けてはどうか?労働者に不利益になるような出勤停止は好ましくないとある。やや言葉足らずな記事になっているとは思う。後述する労基法第26条(休業手当)についての説明がないのは大きな減点材料だ。ただめちゃくちゃブラックな内容とまでは言えないと僕は考える。

 

しかし弁護士の先生たちによって炎上した。

 

 

 

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さて、どうしたものだろうか。

弁護士先生は民法536条2項を根拠にして休業期間中の賃金全額支払い義務があるとしている。民法第536条2項には「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない」とある。

 

しかしながら民法第536条2項は任意規定である。つまりこれに反する特約を設けた場合でも労使が合意していれば民法第536条2項の規定を無視することができる。だけどそれだと使用者と労働者の力関係により労働者が不利益を受けることが予想される。特約に合意しろ!合意しなかったらどうなるかわかってるんだろうな!と圧力をかけることが考えられる。

 

そのため民法の特別法としての労基法が重要になってくる。労基法の第26条で「使用者の責めにより休業をさせた場合は平均賃金の60%を休業手当として支払う」ことを求めている。平均賃金とはざっくりいうと日給相当額だ。さすがにざっくりすぎるか。過去3ヶ月間の賃金の総額を総日数で割ると出てくる。

 

さて、労基法第26条は強行規定だ。これを無効とするいかなる特約も交わすことはできない。たとえ労働者が「休業手当いらないっすよ」と言ったとしても使用者は支払わなければならない。少なくとも平均賃金の60%は絶対に保証しないといけないというわけ。なぜ全額保証じゃないのかということについては、まあ使用者の責めによる休業といっても完全に使用者だけに責任がある事案が実際どれだけあるのかなどの問題もあるのでね。今回問題になっている家族がインフルエンザに罹った場合などもそれに該当するのではないか。少なくとも経営陣の判断ミスなどによるものではないと考えられる。

 

逆に言えば会社都合で休業させた場合であっても、労基法第26条に規定する休業手当を支払えば足りるということになる。それ以上の保証をすることまでは法律上求められていない。そしてほとんどの会社の就業規則には休業手当に関する規定が設けられている。そのほとんどは労基法第26条に準拠した内容となっている。

労基法第26条を確認しておこう。

第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。 

 どの程度の額を保証するかはある程度任意に決められる。60%以上であれば70%でも80%でも100%でも良い。もちろん60%でも良い。実際のところ多くの会社は60%としているのではないだろうか。

 

仮に会社都合の休業の場合は労基法第26条に基づいて平均賃金の60%を休業手当として支払うと定めているのであれば全額支払いの義務は生じないと考える。少なくとも労基法違反は問えない。繰り返しになるが民法第536条2項は任意規定だ。特約として労基法第26条に定める休業手当を支払うとなっていればそちらが優先される。もしも全額を支払うべきだと考えるのであれば民事訴訟ということになる。そこで全額支払えという判断が下されれば義務も生じようが、少なくとも現段階で全額支払いが義務だ、というのは誤った情報を流すことになってはいないか。

 

実のところ、家族がインフルエンザに罹って出勤停止にしたのであれば60%の休業手当より有休の方が多く賃金がもらえるケースが圧倒的に多い。なのでそのような運用をしている会社が多い。そしてそれは厚意によるものであることも多い。もっと言えば社会保険労務士が「有休で処理するよう社員に聞いてみたらどうですか?その方が手取りが多いので」とアドバイスすることはある。別に誰かの不利益になるようなことをしようと考えた結果ではない。誰にとっても利益になるように考えた実務上の結果に過ぎない。

 

もちろん法律的な正しさは必要だ。それを知識として持つことも重要だ。ただ個人的には労働者と使用者が互いに敬意を持って誠実にそれぞれの役割を果たすことの方が実務上はより大切だと考えている。(当たり前の話だが法律を遵守した上で)

 

まあこうしたことをきっかけに休業のあり方や働き方が見直されるなら意味があると思う。インフルエンザに関しては新型だと使用者の責めによらない休業(つまりノーワーク・ノーペイでも良いことになる)だけどそれ以外のインフルエンザは会社都合の休業になる、とか基準がわかりにくい点がある。台風の時の休業も同様だ。公共交通機関が止まってたら不可抗力だけど、徒歩や自動車通勤者を休ませると会社都合で休業手当が必要とか。

 

最後に。

この記事を書こうと思ったきっかけを晒したい。

こういう輩が一番うんざりさせられる。

社労士そのものが反社会的存在?なんか根拠でもあるんですかね?

こういう一部を全体に当てはめ勝手に解釈して名誉を毀損する人間が一番デマに騙されやすい軽い頭の持ち主だと思ってます。

 

デマに騙されないようにするために、常識を疑い、偏見を捨て、自分の頭で考えることが大事ですね。