ジンジャーエール

辛口エールで一杯ひっかける

欧州スーパーリーグ構想という大失敗に終わったクーデーター未遂事件

あっけなく幕を閉じそうである。突如として浮上した欧州スーパーリーグ構想はまたしても失敗に終わりそうである。

欧州スーパーリーグ構想ってなんだ?

www.goal.com

参加予定クラブ:レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリー(以上スペインリーグ)、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、チェルシー、リバプール、アーセナル(以上イングランドプレミアリーグ)、ユベントス、ミラン、インテル(以上イタリアセリエA)

 

上記のヨーロッパサッカーを代表する12のクラブが中心となって、現行のリーグやヨーロッパカップ戦とは異なる「エリートリーグ」を作ろうとしたのが欧州スーパーリーグ構想である。12クラブは伝統や実績、資金力に人気などの面でヨーロッパのサッカーシーンの中心を担っている存在だ。元々は各国のサッカー協会やヨーロッパを統括するUEFAがコンペティションの運営を担っている。サッカークラブはそこに加盟して参加しているのである。ザックリいうと欧州スーパーリーグ構想はクラブが主導権を握るために、自分たちで大会を作ろうというものだ。

なぜ自分たちで新たな大会を作るのか?

これはハッキリしている。金だ。マネー。もっとマネーを。現行の各国リーグ戦やヨーロッパカップ戦でも勝ち抜けば賞金は出る。ヨーロッパ最高峰の大会チャンピオンズリーグ(以下CL)だと昨年の優勝チームであるドイツのバイエルンミュンヘンは1億2千万ユーロ強を手にしている。160億円くらいってすごい。これには参加費や放映権の分配金などが含まれる。それにしても巨額だ。

kicker.town

 

CLは各国リーグの優勝チームが出場できる。あとはUEFAランキングという国別の強さ的なものを表すランクがあって、それにより出場チーム数が振り分けられる。たとえば現在ランキング1位のスペインからは最大4チームがCLに参加可能といった具合だ。

 

CLはとても人気のあるコンペティションだから放映権料も莫大だ。じゃあこれをどう分けるかといったらある程度はクラブや所属リーグの人気によって金額が変わるが、たとえばサッカー小国のそんなに有名じゃないクラブでも出場していればそれなりの額が分配される。UEFAはヨーロッパサッカー全体の利益を考えなければならないので当然だ。特定の強い国、強いクラブの利益だけを考えるわけにはいかない。公平公正である必要がある。

 

しかし今回欧州スーパーリーグ構想をぶち上げたような人気・実力があるクラブからすると「ファンは自分たち(要するに所属する優秀な選手たち)の試合を見るためにお金を払っている。だから自分たちにもっとよこせ。小クラブは視聴率に対して貢献してないんだぜ」となる。当然一定の公平さを保ちたいUEFAとは利害がぶつかる。それなら自分たちで新しい大会作っちゃおうぜ!ってことです。まさに「エリートによるエリートのための大会」。12クラブの幹部たちはファンは喜んで自分たちの動きを支持するはずだと思ったんでしょうかね。しかしそうは問屋がおろさなかった。

あっという間に頓挫

もともとこうしたエリートクラブによる新リーグ構想は昔からあった。もう20年前くらいから構想が浮かんではその都度反発を受け消えていた。それでも夢(というか欲)を諦めきれずに水面下で調整していたんだろうね。現在のコロナ禍でどのクラブも経済的にダメージを受けているのは間違いない。バルセロナなんかこのままでは財政破たんの危機と報じられたりもした。そうした財政的な見通しの悪さに対する焦りもあったのかもしれない。

 

しかし世間の反発は予想以上であった。エリートクラブの幹部たちは完全に風を読み違えていた。まず何より自分たちのクラブに所属する選手や監督たちから反対の声が上がった。欧州スーパーリーグに参加するクラブに所属する選手たちは代表選から締め出すというUEFAの脅しも効いただろう。が、なによりファンや選手を顧みない幹部たちの強引さに辟易したのが大きいと思われる。12のクラブの幹部がどれだけ美辞麗句で欧州スーパーリーグ構想を語ろうと、結局のところ自分たちで富を独占したいという思惑が透けて見える以上世間やフットボール界の賛同を得られないのは仕方ない。

 

結局12クラブのうち半分を占めるイングランドプレミアリーグのクラブが全て構想からの撤退を表明。こうなっては欧州スーパーリーグ構想を続けることは不可能だろう。かくして欧州スーパーリーグ構想はわずか48時間で瓦解する結果となった。

欧州スーパーリーグ構想のなにが問題だったのか

問題点は色々あるが、結局のところエリートクラブが富の独占を図り貧しいものへの分配を怠ったことに尽きる。欧州スーパーリーグに参加予定だった12のクラブですべての選手を自前で育てているクラブなんてない(バルセロナは一時期いい線いっていたが)。よそのクラブへ大金を積んで選手を移籍させているのだ。もちろん資金的に恵まれないクラブへ十分な移籍金を払うことで助けている、という見方もできるだろう。しかしそれは一方的な施しを与えているのではなくあくまで対等な取引の結果である。

 

エリートクラブが欧州スーパーリーグによって経済力が強化されれば、中小クラブとの差がさらに開く。経済的優位を背景に選手の引き抜きは今以上にし烈になるだろう。その先にあるのは共生関係ではなく搾取するものとされるものの関係だ。というか、現時点でもそうなっている。特に選手引き抜きに関しては年々低年齢化している。エリートクラブは中小クラブを人材供給のための下請けでしかない状態はさらに強化される。そのような状態が続いたとして、その時フットボールはかつてと同じような活気を保っているだろうかというとかなり疑問が湧く。

 

これだけ世間の反発を招いたのは一つはカネが支配する上流下流のグロテスクな階級制度を見せつけられることへの嫌悪と、一部の存在だけが富を独占するフットボールはいずれ人々の興味を失いフットボール自体の人気の低下の懸念をなんとなく察知したからではないだろうか。

that’s entertainment

フットボールはどこまでいってもエンターテインメントであるべきだと僕は思う。

 

世界では富の半分を数十人の富豪が持っているとか1%の富裕層が世界の富の80%を持っているとか言われている。格差はこれからも広がっていく恐れがある。そして格差は固定化する。少なくとも富や権力を持っている側は格差を固定化したいと考える。欧州スーパーリーグ構想はそうした格差の固定と富の独占を念頭に勧められたものであることは疑いようがない。そんなグロテスクなものはフットボールではない。フットボールは文化であり、情熱であり、究極の娯楽だ。

 

フットボールは情熱の奴隷であって、金の奴隷ではない。そこは譲らないでいて欲しい。