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ginger-yell

辛口エール

「売る力」に見る経営者としての正しさと現場の疲弊

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鈴木敏文氏(株式会社セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問)の「売る力」(副題:心をつかむ仕事術 文藝春秋)という本を読んだ。

読んで色々と考えさせられましたので書き留めておきます。

経営者としての圧倒的成功と末端に落ちる影

セブンイレブンいい気分?

晩節を汚したとはいえ鈴木敏文氏が日本の流通業界において大きな業績を残したのは紛れもない事実。僕が子供の頃(1970後半~80年代)はコンビニなんてまだまだ珍しかったけど今じゃコンビニがないところの方が珍しい。

「お前ん家、周りになんもねーな。コンビニすらねーのかよ」

田舎を表す指標の一つにコンビニが用いられたりする。コンビニがあれば栄えてるというわけでもないしむしろ田舎の方だと店舗に対して信じられないくらい広い駐車場を持つコンビニがあり夜なんかはヤンキーがたむろしたりしてむしろ邪魔なんだけど。まぁ利便性に欠ける町って言いたいんでしょうね。

休む暇を与えない指令

セブンのヒット商品にプライベートブランド(PB)の「金の食パン」というのがある。僕も食べたことがあるけど、確かにおいしい。通常のPB商品の2倍くらいの価格でもバンバン売れたそうです。普通の人なら「やったね」で済むところ、鈴木氏は違います。

普通ならば、販売により力を入れるよう指示を出すでしょう。しかし、わたしは発売直後から別の指示を出しました。「すぐに次のリニューアル版の商品開発を始められるように」。~(中略)~おいしいがゆえに飽きられる。飽きられてから次の商品を開発するのではなく、飽きられたときにすぐ次の商品を投入できるように、今から研究に着手させたのです。 

                         (「売る力」25頁) 

うむ。

確かに経営者としては顧客を飽きさせないサイクルを創ること、一歩先を行くことはとても大事なのだろう。しかしこれ、社員はたまったもんじゃないと思いませんか?

最も避けるべきは機会ロスという呪文

鈴木氏は「機会ロス」こそ最も避けるべきだと考えているようです。

ある商品の売れ行きが突然動き始めたら、商品を一気に市場に投入し、広告を打ち、情報発信に注力して、爆発点に持っていく。

                         (「売る力」165頁)

商品のサイクルがとにかく早い現代では瞬発力が命のようです。

コンビニは、ペンシル型化が進む顧客ニーズの変化に歩調を合わせ、売れ行きが落ちて死に筋となった商品はすぐに店頭から排除し、新しい売れ筋を一気に投入しないと経営そのものが成り立たないのです。 

                          (「売る力」167頁)

 欲望からは欲望しか生まれない

確かに、機会ロスを避けるということは正しいことだし、飽きられる前に新しい商品を投入するということも経営的に見れば正しいのでしょう。しかし、その根底にあるのが僕にはどうも、「自分たちが総取りしたい」という欲望のようで少し辟易します。ほどほどということが無いのですね。

それが表れているのがドミナント戦略だと思います。

あるコンビニオーナーの悲嘆

例えばコンビニが1店舗もない地域があったとします。そこにセブンイレブンが進出します(仮にA店とします)。で、1年くらい経ってそれなりにデーターが出てきた。ライバル店がそれを見て出店してくるかもしれない。そうするとフライチャンズ本部としてどう対策するか。既存店に力を入れると思うじゃないですか。普通の人は。拡大する企業は違います。

500mくらい離れたところにセブンイレブンをオープンさせます!そうするとその地域の商圏はセブンの総取り!となるのです(仮にA´店とします)。

A店のオーナーはたまりませんよね。お客さんを食い合うわけだから売り上げは落ちる。一方A´店のオーナーも当初聞いていた見込みより売り上げが伸びない。ただ、本部は2店舗分からのセブンチャージ料が入るから収入は増加する。

A店のオーナーさんは「聞いてないよ…」と嘆いていました。

ビジネス的には正しいけれど息苦しい

先ほどの「金の食パン」の話もそうですが、常に追い立てられる感じがします。厳しいビジネスの世界です。拡大成長を目指す経営者の戦略としては正しいのでしょう。ただ現場レベルに理念まで伝わるかというとそうでもない場合の方が多いのではないでしょうか。売るためのノルマが課せられ本部➔店長(オーナー)➔バイトとプレッシャーがかけられる…末端になるとブラック化してしまう例はコンビニ業界では多いのではないでしょうか。

自爆営業とは要するにただの搾取

セブンイレブンでは日々「仮説と検証」を繰り返しているそうです。それにより顧客ニーズがどう変化しているのかを掴もうとしているとのことです。そのこと自体は素晴らしいのですが…

セブンーイレブンの店舗では、発注分担といって、高校生のアルバイトにも商品の発注を任せます。~(中略)~素人同然の高校生のアルバイトでも、店舗の経営を左右する発注の仕事をこなせるようになるのは、「仮説と検証」を日々、繰り返すからです。 

                          (「売る力」119頁)

 鈴木氏にはもしかしたら若者を育てている、という崇高な理念があるのかもしれません。しかし日々売り上げという数字に追われる現場でも同様に理念を共有できるのでしょうか?

仮に仮説が誤ったもので発注ミスをした場合どうなるのでしょう。

例えば‟梅おにぎり”が売れると考え通常より多く仕入れた。ところが予測が外れ全然売れなかった。この場合に「なぜ予測が外れたのか」「次にどう活かすのか」という所で議論が終始すれば問題はない。しかし実際はこうならないか。

店長「テメー!テメェのせいで損失出たんだぞ!お前売れ残り全部買えよ?給料から引いとくからな」

バイト「…」

 

あるいは人手不足の店舗で。

バイト「あの、店長。今月でバイト辞めたいんですけど…」

店長「あぁん!?おまえ以前に発注予測ミスったよな?辞めるっつうならその分の損害請求するぞ?」

バイト「…」

 

実際、ブラックバイトにはこのような例は枚挙に暇がない。

 大きな組織で、なおかつ総取りを狙ってプレッシャーをかけるとどこかで歪が出るのは当然だろう。

その他にもクリスマスケーキや年賀はがき、おせち、恵方巻やバレンタインチョコなどなど季節ごとのキャンペーンの自腹強要。

時給800円程度の高校生バイトに発注という責任の思い業務をさせるなら責任も時給の程度に応じたものにしないと公平性を欠くことになる。

バイトといえども仕事に責任感を持てと言うのは分かるが、時給に対して過度の責任を負わすのも妥当ではない。末端でブラックバイト化してしまっていることに対しては経営者として責任はあるでしょうしね。拡大に気を取られ末端まで気が回らなかったのも案外最後に足を掬われた原因の一つかもしれないというのは穿った見方でしょうか。

経営者としての視点で見ればとても参考になる

ちょっと厳しめな感じで読みましたが、もちろん経営者の理念や考え方として学ぶことも多々ありました。

特に「お客様のために」というのはウソで「お客様の立場で」考えるのが正しい、というのはその通りだなぁと感じました。「お客様のため」といいながら実は自分たちのためというのはよくある話で、相手の立場に立つという感覚が抜け落ちてないかは僕も日々確認しなきゃいけないと改めて考えさせられました。

公平に見れば、あれだけの大企業を創りあげたわけだから優れてないはずがありません。ただ、大きくなることだけ、総取りすることにこだわり過ぎた面があるんじゃないか、という印象を受けました。

 

ぬるいと言われればそれまでなんですが、ほどほどでもいいんじゃないか―――

自分で全部取ってしまわないで他の人の分も取っておいていいんじゃないか。そんな感じで僕は今後もやっていこうと思います。

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