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是枝監督に見る助成金と公権力との距離感

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是枝監督の最新作「万引き家族」がカンヌ映画祭で最高賞を受賞しました。

内容については実際に見てから感想を書きたいと思ってます。ハイ。

しかし受賞直後から映画と是枝監督を巡ってバトルが繰り広げられています。愛国的?な人たちからは、日本の不都合な事実に目を向けた同映画に対するバッシングが起こっています。

 

さらに是枝監督が「公権力と距離を保ちたい」という意向で文科省に招かれての祝意を辞退したいと述べたことが愛国心の強い?人たちを刺激してしまいました。映画の制作にあたって「助成金をもらってるくせに!」と非難を浴びているのです。国からの援助を受けたのだから、国に感謝するのは当然。距離を置くなんて言うのは恩知らずも甚だしい、というわけです。

 

さて、助成金をもらいながら公権力とは距離を保つ、という態度は成立するのか。

僕は仕事柄助成金を扱うことがあります。なので普通の人よりは助成金に対する理解があるものと思ってます。もっとも僕が普段関わる助成金は主に人に関するものなので映画の助成金はまた違った面があるでしょう。ただ、助成金の存在する意味というか理念は共通しているのではないかと考えています。

そこで是枝監督の態度の是非を、僕なりに考えてみたい。

助成金の理念

 まず最初に言っときます。

僕は是枝監督の態度はまったく普通のことだし、非難される意味がちょっとよく分からない。正直言って是枝監督を批判している人たちの考え方は気持ち悪いと感じています。「道徳の点数化」のように人の心に踏み込んで、あれこれコントロールできると考えているのが気持ち悪いのです。世の中には自分と異なる価値観、モラル、信念を持った人がいるということを理解できない感性の鈍さに恐怖を覚えます。

で、まず最初にそもそも助成金ってなに?ってことをしっかりと理解しておく必要があるのではないか。どうも是枝監督を批判している人の中には、助成金は国からの施しであり伏して拝受するべし、という強迫観念的なものを感じます。

 

助成金を分解してみましょう。

助 … 助ける、補助

成 … 成長、成熟、成功

金 … マネー

つまり助成金とは「成長や成熟を助けるお金」のことです。

何の成長や成熟を助けるのでしょうか。それは助成金の対象となる産業(業界)や企業(とそこで働く労働者)を、です。これが助成金の理念とか存在意義です。

 

例えば厚生労働省の雇用関係助成金には「介護事業所」向けのものがいくつかあります。介護事業だけが受けられるものです。これは国が「介護事業を成熟させたい」と考えているからわざわざ特定の業界に特化した助成金を創設するのです。たとえば小売業や飲食店だけが対象となる厚労省所管の雇用関係の助成金はありません。まー、超高齢化社会を考えると介護事業の需要はますます増えるでしょうからそこを強化したい、と。

あるいはパートとか契約社員とか派遣社員などのいわゆる非正規雇用を正規雇用にしたりすると助成金が受けられます。この場合は非正規雇用の人たちを助けることを目的としています。雇用を安定させたい。でも雇用は本来民間で自由に行うこと。国として直接介入はできない。そこで会社にもメリットありますよー、ということにして労働政策に協力してもらいたいんですね。

助成金はただの恩恵ではない

助成金を国からもらってるんだから公権力と距離を保ちたいとか言うのはわがまま、と考えている人たちが見落としていることがあります。それは助成金を支給することで結果として国が得することがあるんです。というか助成金の目的の一つはまさにそれです。

今回国枝監督はカンヌ映画祭という国際的な映画祭で最高賞を受賞しました。日本映画の素晴らしさを海外にアピールしましたね。「日本、やるじゃん」って。そうすると海外の映画会社などが、一つ日本映画に投資してみようかと考えるかもしれない。そしたら日本映画が隆盛します。

また「万引き家族」を映画館に見に行く人が増えれば映画館が潤います。他の映画を見たくなるかもしれません。いままで映画館に行く習慣のなかった人たちが月に1回映画を見に行くようになる。そうなれば映画産業は助かります。国としても消費が増えれば税収や景気回復にも期待が持てます。となれば是枝監督が受けた2,000万円なんてあっという間に回収できるんですよ。*1

 

雇用関係の助成金でも同様です。助成金を受けた企業の経営が安定すれば税収や雇用維持を国は期待できます。非正規雇用が正規雇用になれば社会保険料や税金を徴収でき、はたまた社会不安を和らげる効果もあります。つまり助成金というのはなにも国が恩恵を一方的に与えるばかりのものではないということです。ちゃんとリターンがあるんですね。当たり前の話ですが国はそこまできちんと計算しています。ざっくりどんぶりテキトーに助成金を設けているわけでも支給しているわけでもないんですよ。

是枝監督を批判している人たちはその辺りの感覚を持ってない。助成金は国からの恩賞だとしか考えてないんですね。だから首を垂れよ、と喚くのです。

道徳規範の押し付けは超危険

見てきたとおり、助成金を支給するのは国にとってもメリットのあることです。

助成金を使うことで事業者にもメリットがあるのは確かですが、そのぶん何かの形で国に❝お返し❞をすることになります。映画で言えば映画を製作して映画産業の盛り上がりに一役買う。それが運よく当たれば税収や消費を刺激することにつながる。だから助成金をもらっても堂々としていればよろしい。本来そうあるべきなんです。

もちろん「助成金をもらって助かった 、ありがとう」と事業者が国に感謝するのも自由です。そうしたいと思うなら、おおいに感謝したらよろしいでしょう。

でもそれは心の中の話であって、周囲から「そう思え」と強要されるものであってはいけないでしょう。ハッキリ言って雇用関係の助成金を受けている事業者でも、国のこと信用していないところはいっぱいありますよ(笑)

税金をきちんと納めるとか、法令順守とかそういった当たり前のことをしているのは前提としてその上で公権力とは距離をとりたいと考えるのはむしろ健全だろー、と僕なんかは思うのですが。

何度でも言うけど助成金っていうのは、国からのありがたい恩恵でも施しでもないからね。

助成金を不正に受給した場合に批判されるのは当たり前。だけどごく普通に助成金という制度を利用して、かつ、国家反逆するわけでもなく単に距離を保ちたいだけでも責められるなんてつくづく使用人根性の持ち主が世の中にはいるのだなと思います。

自分の行動を縛るのは自分自身だけ

です。

そして自分の価値観で他人を支配できると考えている人はいかにそれが傲慢なものかをいま一度考えてはどうでしょうか。

*1:もちろん助成金の甲斐なく大コケする映画もあるでしょう。が、それはそれで仕方ない。成功の陰には多くの失敗があるものです。

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