ジンジャーエール

辛口エールで一杯ひっかける

半年で休みが4日間…休日労働残酷物語

2015年に亡くなった女性会社員について山口労働基準監督署が労災と認定したというのがニュースになっています。朝日新聞によると亡くなった女性の死亡直前1ヶ月の残業時間は70時間ほどで、直前2〜6ヶ月の平均残業時間は71〜77時間だったそうです。国の過労死の認定基準は発症1ヶ月前の残業時間が100時間か、発症前6ヶ月の残業時間の平均が月80時間。今回はこの基準に達しないものの亡くなる前6ヶ月間に4日間しか休みがなかったという事実を鑑みたと記事にはあります。

 

もっとも直近1ヶ月100時間、直近6ヶ月平均80時間というのは一つの目安です。これに達しない残業時間の場合は全て否認されるというわけではありません。今回の労災認定において重要視されたのは休日が全然取れてなかったことですね。特に同記事によると15年8月14日〜11月12日は連続91日間の出勤だったそうです。3か月近く休みなく働いていたことになります。

 

労基法上は休日は少なくとも週に1日は与えないといけない決まりになっています。*1これを法定休日といいます。一方で同じく労基法上では労働時間は1日8時間1週間40時間が上限と原則定められています。*2つまり1日8時間働く場合は最大で5日間までしか働かせられません。週休2日ということになります。この週に2日間の休日ですが1日は法律上与えないといけない法定休日。もう1日は週40時間をクリアするために与えられるもので一般的には法定外休日と呼ばれます。

 

法定休日と法定外休日の違いは法定休日に出勤した時は休日出勤、法定外休日に出勤した時は時間外労働、ということです。もう少し細かくいえば割増賃金の割増率が異なります。法定休日の場合は135%で計算します。時給1,000円の人なら1,350円×労働時間です。法定外休日の場合は125%。同じく時給1,000円なら1,250円で計算。通常の残業代の計算の時と同じ率です。どちらに該当するかによって支払われる給与額が変わります。なので法定休日と法定外休日を分けておく必要があります。*3

 

さて、労基法上では休日は少なくとも週に1日は与えないといけない決められているのは先述しました。これは逆にいうと法定休日に勤務させてはいけないということです。もう一度確認しておきますが、休日出勤を命じることはもともとは禁止事項なのです。ですので間違っても気軽に休日出勤を要請してはいけません。

 

ただし何事にも例外はあります。というか完全に禁止してしまうと業務が滞る場合があるよね、ってことで一定の条件のもと休日労働を命じることが可能になるのです。

一定の条件とは「時間外・休日労働に関する労使協定」を使用者と労働者代表が結んで所轄の労基署に届け出ることです。この協定を結ばないで残業や休日出勤をさせた場合は全て違法なものとなります。

 

ちょうどいま残業時間の上限規制の件でいろいろと言われていますね。見てきた通り残業と休日労働は違うのですね。で、残業の上限とする時間の中には実は休日労働の分は含まれないのです。別カウント、ということになります。

1日の労働時間は原則として8時間が上限ですよね。では例えば法定休日に仕事をさせた場合どうなるかというと、極端に言えば10時間でも15時間でも135%の割増賃金を支払えば足ります。8時間を超えた分は135%+残業の25%=160%という風にはなりません(ただし休日労働が深夜(22時~5時)にかかった場合の深夜割増は必要)。

1か月の残業時間を仮に月45時間と決めていたとしましょう。休日労働の時間はこの45時間の中に含めなくて良いのです。なので実際は45時間+休日労働の分だけ所定労働時間を超えて働かせることができます。なんてこった!

 

で、この休日労働。「時間外・休日労働に関する協定」で1か月に行わせることができる休日労働日数を定めておく必要があります。多いのは「1か月に2回」とかですね。この場合は法定休日に2回の出勤を命じることができます。*4

これを「1か月に4回」…と定めている会社もあります。そうなると1か月のうちほぼ毎週休日に出勤を命じることができるようになります。ま、そのことだけをもって一概にブラック、とは言えませんが。*5

あと念のため書いておきますが、時間外労働や休日労働をさせるにはまず「時間外・休日労働に関する協定」を結んで所轄の労基署に届け出る必要がありますが、届け出ただけじゃダメですよ!残業代や休日出勤の割増賃金を払わなければ当然違法です!

 

さて原則の話に戻ります。

労基法では少なくとも週に1日は休日を与えないといけないと定めている。(労基法32条)

また原則として休日労働をさせることはできない。(労基法35条)

一方で一定の条件を満たせば休日労働をさせることはできる。(労基法36条、37条)

この場合‟休日労働をさせてはいけない”の部分について「時間外・休日労働に関する協定」により例外的に休日労働を命じることができます。*6

では‟少なくとも週に1日の休日を与えること”という労基法32条の扱いはどうなるのでしょうか。例えば「時間外・休日労働に関する協定」を適法に結んで届出をして、そこには月に4回休日出勤させられることが書かれてあり、休日労働に対する割増賃金も支払われていたら。いやいやでも労基法32条では週に1日は休日を与えないと法律違反になるのでは…?そうすると休日労働させたら割増賃金払って、代替となる休日も与えないといけないのか。

 

実のところ、労基法では休日労働させた場合に代休を与えることまでは要求してないのです。行政の解釈としては労基法上にそれについての定めがないから オッケー、みたいなところです。詳しくは労働基準法解釈総覧という労働基準局編集の本に載ってます。ネットで探したのですが該当の部分がない。ただJILPTという独立行政法人のウェブサイトにほぼ同様の記載があります。

Q8.休日をめぐってはどのような法規制がありますか。|労働政策研究・研修機構(JILPT)

該当部分を抜き出しますと…

36協定(時間外・休日労働に関する協定)*7と休日割増賃金の支払が必要となりますので、注意が必要です。一方、この場合には、代休日を与えることは労基法上要求されず、代休日を与える場合にもその定め方について週休制の要件は適用されません。 

 

このあたりが労基法の古いところというかなんというか。

要はちゃんとした書類作って届出して払うもん払ってたら際限なく働かせてもいいんだよ、と法律上のお墨付きを与えているも同然なんですね。いま問題の時間外労働の特別条項による残業の事実上の青天井化も同様です。

 

おさらいしますと今までは、「時間外・休日労働に関する協定」を結んで所轄の労基署に届け出て、協定の範囲内で、割増賃金をキチンと支払っているのであれば休みなく働かせても労基法上は問題なかったんです。

ただ今回の労災認定で変わるかもしれません。残業時間の上限規制の法改正に向け議論が進んでる現状ですが、休日労働の規制についてはそのままになっていました。これについては専門家からも休日労働も上限規制しないと、という危惧の声もありましたが半ば放置されていたんですね。

が、やっぱり休日労働だって規制しないと労働者にとってこのような健康上の危険があるし、その場合は労災認定される可能性が高まる、企業の責任も問われるよね、ってなれば‟休日労働による抜け道”にも規制がかかるかもしれません。というかそうなるべきでしょう。

 

しかし…人が死ななきゃこういう機運が高まらないとしたらそれはそれで問題なんだよなぁ。本当は今回のような悲劇が起きる前に変えておかなきゃいけなかったんですよねぇ。

 

最後に労基法の第1条を記しておきます。

労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。 

 

半年で4日しか休みが取れないのは‟人たるに値する生活”でしょうか?*8

働き方、本当に早く改革しようね。ピース。

それではまたね!

 

*1:労基法第35条。なお4週4休制度を採用する場合は例外とする。ただしその場合でも4週の起算日を明示する必要がある。

*2:労基法第32条。変形労働時間制についてはここでは措く。

*3:例えば毎週日曜を法定休日、土曜祝日を法定外休日として就業規則に定める、など。

*4:したがってこの場合月に3回休日労働を命じることはできません。

*5:例えば百貨店で年末年始などの繁忙期は毎週休日労働させて、反対に閑散期は休日労働がない、など。業態や職種により異なる。年がら年中休日労働させる会社は単に早く人入れろ、この超絶ブラックめってことです。だからこそ慢性的な人手不足なのかもしれませんが。ニワトリとタマゴか。

*6:今回は休日労働の話なので時間外労働=残業についてはまた別の機会に。

*7:筆者による註。時間外・休日労働に関する協定は労基法第36条によるため俗に36協定と言われます。

*8:経営者ガーとか言うのはここではナシね。僕も経営者だから言いたいことは分かるが。あくまで「労働者」にとっての話。